年下イケメンホストの一途な愛

「じゃあ、今更なんで蘭子さんと会っていたんですか」

「それは……」

まさかあゆみに店をプレゼントするから相談にのって貰っていたとは今の時点で言えない。

「それとも新しいホストクラブオープンの為誘っていたんですか?」

「違うよ」

「麻生さん、蘭子さんとは特別な関係でしたよね」

「おい、ヒカル」

「あゆみさんには知られちゃまずいんですか」

「特別な関係って誤解される様な言い方するなよ、大変な時に世話になった恩人だ」

ヒカルはあゆみの手を握って「麻生さん、本当の事を話してくれるまで、あゆみさんは俺が預かります」そう言ってあゆみを連れて行こうとした。
俺はヒカルの手からあゆみを奪い取り、自分の背中に回した。

「あゆみは俺の妻だ、あゆみに対して何も疾しいことはしていない、さっさと仕事に行け」

この時俺の背中にあゆみは頬をつけた。

ヒカルは仕方なく仕事に向かった。

俺は背中に回したあゆみの方に振り返り、引き寄せて抱きしめた。

あゆみも俺の背中に手を回しギュッと俺を抱きしめた。

「あゆみ、俺は浮気なんかしてないし、疾しいことは何もない、信じてくれ」

「わかりました、でももし、夜の世界に戻ると言うのであれば私は反対はしませんよ」

「戻らねえよ」

「はい、はいわかりました、今日は凌の病院の日ですよ」

「そうだった、体調いいから忘れてたよ」

「ランチ済ませたら出かけましょうね」

「ああ、そうしよう」

俺とあゆみは病院へ向かった。

俺は脳腫瘍で余命宣告を受けていた。

手術で生存率は上がるが認知機能障害の後遺症が俺の中のあゆみの記憶を消した。

俺は何度もの奇跡によりあゆみを愛した。

これから先脳腫瘍の再発と認知機能障害によりあゆみの記憶が消える可能性は無いとは言い切れないと言われている。

爆弾を抱えている俺との夫婦生活を、あゆみはどう思っているのだろうか。

俺はあゆみに俺の全てを残したい。
あゆみの望みである花屋の店、そして俺との子供。

俺の人生はこの先いつまでなのか、誰にも分からない。

あゆみの望みを残された人生で成し遂げなければならない。

先生の診察は順調だとの事だった。

「このまま、お薬を続けて、再発防止に頑張りましょう」

「はい」

「記憶障害はその後如何ですか」

「大丈夫です」

「そうですか、それは良かったですね」

それから薬を貰いマンションへ戻った。

俺は蘭との事をどうあゆみに話したらいいか迷っていた。
「あゆみ、ヒカルが言ってた蘭のことだけど、特別な関係って言っても男女の関係はないからな、俺が店をオープンさせた時に世話になって、あゆみのこともちゃんと話してあるんだ」

「そうですか」

「フラワーアレンジメント蘭の女社長、真壁 蘭子なんだけど知らないかな」

「真壁 蘭子さん、知ってますフラワーアレンジメント蘭の社長さんですよね」

「そうそう、その女社長」

「お仕事のことで会っていたんですか」

「あっ、うん」

俺は答えに詰まった、この時あゆみの納得いかない表情に気づく事が出来なかった。

その夜、あゆみを抱きしめるも、あゆみは俺の腕からすり抜けていった。

「凌、本当の事を話してください、それまで寝室は別にお願いします」
えっ?嘘だろ?この夜から俺とあゆみは別の寝室で眠ることとなった。

もう、なんなんだよ、これじゃ何にもならないよ。

それからあゆみは俺と会話をしてくれなくなった。

蘭とのことで絶対疑っていると睨んだ。

そして追い討ちをかける様に蘭がヒカルの店にやって来た。

「ねえ、凌、店出すんだって?」

「えっ?やっぱりそうなんですか」

おいおい、蘭も蘭だよ、凌、店出すんだって?なんて言ったら誤解されるだろう。

案の定、俺は新しいホストクラブの店をオープンするらしいと噂が広まった。

しかも悪いことは重なるもんだ。

確かに蘭に相談したが、それは花屋のノウハウで、ところがいつの間にか新たなホストクラブを蘭と共に経営すると言う話になっていた。

俺は店舗の下調べに出かけ、夕方マンションに戻ると、あゆみは俺に話があると切り出した。

「凌、蘭さんをお好きなんですか」

「そんなことないよ」

「蘭さんと新たな人生を歩みたいと考えているのでしょうか」

「違うよ」

「ビジネスパートナーだけの関係なのですか」

「違う」

「それならそれ以上の関係ですか」

「そうじゃないよ」
「本当の事を話してください」

俺は仕方なくあゆみに本当の事を話し始めた。

「花屋の店舗を探していた」

あゆみは驚きの表情で俺を見つめた。

「あゆみに店をプレゼントしようと思って店舗を探していたんだ、花屋の店舗をオープンさせるにあたり、蘭にノウハウを聞いていたんだ」

「どうして」

「だってあゆみの夢だろ?花屋の店を持つ事」

「そうですけど……」

「あゆみに全て俺が出来る事を残したいんだ、花屋の店、そして俺とあゆみの子供」

「残したいって私の未来に凌はいないって事ですか」

「それは……」

「蘭さんと新しい人生を歩むって事ですか」

あゆみは泣きながら俺に訴えていた。

「バカだな、そんなわけないだろう、俺の側にいる女性はあゆみ以外考えられないよ」

「凌、本当に?」

俺はあゆみを引き寄せ抱きしめた。

「蘭とは何にもないし、あゆみを一人にしないと約束する」

「凌」

俺はあゆみとキスをした。

しばらく寝室が別だった為、あゆみへの思いを抑える事が出来ず、俺はソファに押し倒した。

「凌」

「あゆみ」

キスの雨は勢いを増してあゆみの全身に降り続いた。

あゆみは可愛らしい声を上げる、こんなにもあゆみを欲しいと思ったことはなかった位にあゆみを求めた。

あゆみの肌はピンク色に染まり、俺の唇があゆみの全身を吸い尽くした。

その度にぴくっと震えるあゆみの身体は俺を感じていた。

あゆみの中にゆっくりと侵入すると、あゆみは俺の唇を求めた。

俺は全てをあゆみに注ぎ込んだ。

何度も、何度も、何度も……

朝、目が覚めると、あゆみはもう起きていた。

「あゆみ、おはよう」

「おはようございます」

「花屋の店舗決まりそうだよ」

「本当ですか」

あゆみは満面の笑みで俺を見つめた。

「路面店探すのに苦労したよ」

「路面店ですか」

「不満か」

「そんな事ありません、最高です」

「だろ?」

俺は自信満々の表情をあゆみに向けた。
「凌もホストに戻ったらどうですか」

「えっ?」

「ヒカルくんの店で働かせて貰えばどうですか」

「ヒカルの店?」

「ホストのお仕事をしている凌が一番生き生きしていますよ」

「でも、すれ違いの生活になっちゃうよ」

俺はそれだけは避けたかった。

「大丈夫ですよ、友梨ちゃんのこと覚えていますか」

「ああ、加々美の店で一緒に働いていたお嬢さんだろ」

「そうです、私が店を辞めた後、友梨ちゃんも辞めて今、バイトを探してるってメール貰ったんです、だからまた一緒に働かないって誘ってみようかと思ってます」

「そうか、彼女なら経験あるし、任せられるから、あゆみも時間調整出来るな」

「はい、凌もヒカルくんのお店なら融通が効くでしょ」

「そうだな、でも子作りは続けるぞ、今夜もあゆみを抱きたい」

俺はあゆみを抱きしめた。

俺のキスにあゆみは可愛らしい声を上げた。

花屋の店舗は順調にオープンに向けて進んでいた。

あゆみは友梨ちゃんへバイトの話を通した。

俺はと言うと、やはり夜の世界に戻る事に躊躇していた。

あゆみと後どのくらい一緒にいられるのか、誰にもわからない。

一分一秒も無駄にしたくはなかった。

あの時、あゆみが手術を選択しなければ、今頃俺はこの世にはいなかっただろう。
術後認知機能障害により、あゆみの記憶は無くなったが、店をリニューアルさせて、ここまで大きくすることは出来なかっただろう。

何度もあゆみに巡り会えて、記憶がないにも関わらず、愛する事が出来たのも奇跡だろう。

俺はあゆみに店と子供を残したい、俺が生きていた証に。

明日、あゆみの花屋オープンを迎える前日、おれの気持ちをあゆみに伝えた。

「あゆみ、俺は夜の世界には戻らない、あゆみの店を手伝うよ」

「どうしてですか」

「一分一秒でもあゆみと一緒にいたいんだ」

あゆみは恥ずかしそうに俯いた。

「わかりました、一緒にいましょうね」

「それと、今晩も頑張るぞ」
俺とあゆみはお互いを求めあった。

そしてオープンの日を迎えた。

俺の人気は大したものだと自分でびっくりしていた。

俺のホスト時代の常連客は列を作って並んだ。

「凌、おめでとう、会える日を待っていたわよ、毎日来るわね」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「あゆみさん、麻生さんの人気凄いですね」

「そうだね」

この時俺はあゆみの気持ちに全く気づけなかった。

場所は違えど、売り上げを上げるために俺は必死だった。

ホストの接客がまともに出てしまった。
俺がホストだったことはあゆみは知っていたが、俺の接客を目の当たりにしてヤキモチを妬いたのだ。

あゆみは気分が悪くなったと先に帰った。

友梨ちゃんから事の事情を聞いてあゆみが心配だったが、閉店まで仕事をして、あゆみが待つマンションへ急いだ。

あゆみは夕食の支度をして待っていてくれた。

俺は急いでドアを開け「あゆみ、あゆみ」と姿を探した。