俺が眠りに着くと、あゆみは次に目覚めた時、自分の記憶が無かったらといつも心配がなくなる事は無かった。

ある日、激しい頭痛を訴えて、それが治ると眠りに着いた。
朝、目覚めた時、俺はあゆみの顔を見て、不思議そうな表情を見せた。

あゆみの中で嫌な光景が脳裏を掠めた。
「お前は誰だ?」って言われたらどうしよう。
息を飲んで俺を見つめた。

「おはよう、あゆみ」

良かった、私の記憶があった。
ほっと胸を撫で下ろした。

あゆみは加々美社長に挨拶に行った。

「大変お世話になりました、この度麻生さんと結婚致しました、そのご報告に伺いました」

「そうか、また彼の記憶が無くならない事を祈ってるよ」

「ありがとうございました」

そう、また凌の記憶が無くなる事はあるかもしれない。
凌は記憶が無くなっても、私と再会し、私をまた愛してくれる。
彼に愛されるのは奇跡だと思っている。
だから、今回で三度目の奇跡が起きたのである。

彼の口からあゆみって呼ばれない日が、ずっと訪れないように祈っている。