「すみません、急に泣かれても困りますよね」

俺はあゆみを引き寄せ、抱きしめた。

あゆみは目にいっぱいの涙を溜めて、その涙が頬を伝わった。
あゆみは思わず両手を俺の背中に回し、「凌」と囁いていた。
「ごめんなさい、私……」

急いで俺から離れた。
あゆみはこの時、見ず知らずの人に、泣かれて、抱きしめられて、名前囁かれて、なんて思っただろうかと戸惑っていた。

「あの……」

あゆみはどうしていいかわからなかった。
その時俺はあゆみの左手の薬指の指輪に気づいた。

「その指輪、俺がプレゼントしたんだよな」

「え? あっはい」

俺はじっと指輪を見つめていた。
絶対に信じてないよね、だって私が信じられないんだから。
そうだ、契約結婚だって言えば。

「あの、私達契約結婚なんです」

「契約結婚?」

「麻生さんは身の回りの世話をしてくれる人を探していて、私と契約したんです」

「へえ、そうなんだ」