「うっ……」
目覚めたとき、見知らぬ天井が真っ先に視界に入ってきた。
――ここは、どこだ……?
俺は王に呼ばれて転移者と戦って、それで……
「っ…………!」
俺はそこですべての記憶を取り戻し、勢いよく上半身を起こした。
が。
「って……!」
全身に痛みが走り、たまらず寝転んでしまう。
どうやら転移者――ベイリフに痛めつけられた傷は相当深いようだ。そんなに長い時間戦っていなかった気がするが、これが実力の差というやつか。
「おやおや、無理をしないでください。あなたが思っている以上に傷は深いんですから」
どうやら、ずっと俺を看病してくれていた者がいるらしい。
ベッド横に、白衣に身を包んだ男性がいた。
「あ、あんたは……」
「王城に勤める医者です。相当の重傷でしたので、私が診させていただきました」
「そうか……。悪い……」
王城に勤める医者となると、ここは王城の一室か。
たしかに装飾や家具がやたら華美だし、普通の部屋ではないと思っていたが。
しかし、どうしたことだろう。
部屋の外がやたら賑わっているようだが……なにか祭りでもやっているのだろうか。
直近で祭りの予定はなかったはずだが。
「しかしレクター様……。本当に災難でしたね……。まさかこんな仕打ちを受けてしまうとは……」
「はは……仕方ないさ。一生懸命に努力しても、転移者には敵わないってことだろ」
これまでの人生は、決して楽なものではなかった。
時間のほとんどを修行に費やして。
同世代が遊びに現を抜かしている間も、ひたすら前に剣の腕を磨き続けてきた。
そう、すべては勇者という期待に応えるために――
でも、その修行はぜんぶ無駄だったんだ。この世には、そういう努力をすべてひっくり返してしまうような奴がいるのだから。
「そういえば……ベイリフはいまどうしてるんだ? もう魔王討伐に向かってるのか?」
「いえ……それが……」
そこで視線をさまよわせる医者。
どういうわけか、何事かを言い淀んでいるようだ。
「レクター様。落ち着いて聞いてくださいね」
「な……おいおい、なんだってんだよ」
戸惑う俺に、医者は衝撃的な一言を発した。
「――魔王は倒されました。勇者ベイリフと、聖女クロエによって」
「な……⁉」
「レクター様。ご自覚はないでしょうが、あなたは半年もの間ずっと眠っていました。率直に申し上げて、お亡くなりになっている可能性さえあったのです」
「…………」
「そして勇者ベイリフの強さも圧倒的でした。たった半年のうちに、魔族と魔王を殺めるまで……そう時間はかかりませんでした」
おい……
おいおいおい……
嘘だろ。
色々と理解が追い付かないぞ。
しかも医者が言うに、魔王を倒したのはベイリフだけじゃない。
もう一人いるって……
「おい、聖女クロエっていうのはまさか……」
「…………」
そこで医者は辛そうに表情を歪める。両の拳を握りしめ、なんだか涙さえ流しそうが勢いだ。
「レクター様。あなたは私の恩人です。あなたがベルド村で魔族を倒していなかったら、私の母は生きていませんでした。……だからこそ、お伝えするのは心苦しいのですが……」
そして医者の口から紡がれた言葉は。
なんとなく予感はしていたけれど、絶対に聞きたくない言葉だった。
「クロエ様は、ベイリフ様と婚姻を結ばれました。――今日が婚姻式の日となります」
「……………………」
嘘だろ。
たしかにクロエとの出会いは普通ではなかった。
俺の名声に目を着けた侯爵家の人間が、年頃の娘をけしかけてきたんだ。
それでも……俺は彼女と愛し合っていると思っていた。
クロエとの時間は本当に楽しかったし、忘れられもしない。
出会いは特殊だったけれど、クロエも俺をひとりの人として見てくれていると思っていた。
なのに……
「は……ははは……」
俺のなかのなにかが、勢いよく崩れ落ちていく気がした。
「あ……! 待ってください! 身体はまだ完全に回復してないんですよ!」
そしてそのまま、医者の声を背に受けて部屋を出るのだった。
目覚めたとき、見知らぬ天井が真っ先に視界に入ってきた。
――ここは、どこだ……?
俺は王に呼ばれて転移者と戦って、それで……
「っ…………!」
俺はそこですべての記憶を取り戻し、勢いよく上半身を起こした。
が。
「って……!」
全身に痛みが走り、たまらず寝転んでしまう。
どうやら転移者――ベイリフに痛めつけられた傷は相当深いようだ。そんなに長い時間戦っていなかった気がするが、これが実力の差というやつか。
「おやおや、無理をしないでください。あなたが思っている以上に傷は深いんですから」
どうやら、ずっと俺を看病してくれていた者がいるらしい。
ベッド横に、白衣に身を包んだ男性がいた。
「あ、あんたは……」
「王城に勤める医者です。相当の重傷でしたので、私が診させていただきました」
「そうか……。悪い……」
王城に勤める医者となると、ここは王城の一室か。
たしかに装飾や家具がやたら華美だし、普通の部屋ではないと思っていたが。
しかし、どうしたことだろう。
部屋の外がやたら賑わっているようだが……なにか祭りでもやっているのだろうか。
直近で祭りの予定はなかったはずだが。
「しかしレクター様……。本当に災難でしたね……。まさかこんな仕打ちを受けてしまうとは……」
「はは……仕方ないさ。一生懸命に努力しても、転移者には敵わないってことだろ」
これまでの人生は、決して楽なものではなかった。
時間のほとんどを修行に費やして。
同世代が遊びに現を抜かしている間も、ひたすら前に剣の腕を磨き続けてきた。
そう、すべては勇者という期待に応えるために――
でも、その修行はぜんぶ無駄だったんだ。この世には、そういう努力をすべてひっくり返してしまうような奴がいるのだから。
「そういえば……ベイリフはいまどうしてるんだ? もう魔王討伐に向かってるのか?」
「いえ……それが……」
そこで視線をさまよわせる医者。
どういうわけか、何事かを言い淀んでいるようだ。
「レクター様。落ち着いて聞いてくださいね」
「な……おいおい、なんだってんだよ」
戸惑う俺に、医者は衝撃的な一言を発した。
「――魔王は倒されました。勇者ベイリフと、聖女クロエによって」
「な……⁉」
「レクター様。ご自覚はないでしょうが、あなたは半年もの間ずっと眠っていました。率直に申し上げて、お亡くなりになっている可能性さえあったのです」
「…………」
「そして勇者ベイリフの強さも圧倒的でした。たった半年のうちに、魔族と魔王を殺めるまで……そう時間はかかりませんでした」
おい……
おいおいおい……
嘘だろ。
色々と理解が追い付かないぞ。
しかも医者が言うに、魔王を倒したのはベイリフだけじゃない。
もう一人いるって……
「おい、聖女クロエっていうのはまさか……」
「…………」
そこで医者は辛そうに表情を歪める。両の拳を握りしめ、なんだか涙さえ流しそうが勢いだ。
「レクター様。あなたは私の恩人です。あなたがベルド村で魔族を倒していなかったら、私の母は生きていませんでした。……だからこそ、お伝えするのは心苦しいのですが……」
そして医者の口から紡がれた言葉は。
なんとなく予感はしていたけれど、絶対に聞きたくない言葉だった。
「クロエ様は、ベイリフ様と婚姻を結ばれました。――今日が婚姻式の日となります」
「……………………」
嘘だろ。
たしかにクロエとの出会いは普通ではなかった。
俺の名声に目を着けた侯爵家の人間が、年頃の娘をけしかけてきたんだ。
それでも……俺は彼女と愛し合っていると思っていた。
クロエとの時間は本当に楽しかったし、忘れられもしない。
出会いは特殊だったけれど、クロエも俺をひとりの人として見てくれていると思っていた。
なのに……
「は……ははは……」
俺のなかのなにかが、勢いよく崩れ落ちていく気がした。
「あ……! 待ってください! 身体はまだ完全に回復してないんですよ!」
そしてそのまま、医者の声を背に受けて部屋を出るのだった。