「ここは……」
「そう♡ ここが私たちの愛の巣ってとこね~」
下級魔族を倒してから数日後。
俺はレナスの《転移魔法》に連れられて、まったく見知らぬ土地を訪れていた。
――もちろん、依頼主さんもタダであなたに頼むつもりはないそうよ。とりあえず、一生分遊んで暮らせるお金と、ミューラ地方の一部領地をあなたにあげるって――
そう。
この場所は《俺のもの》になる領地であり――《R》としての活動拠点にもなる場所だった。
「ふふ。てっきり荒廃した土地でも押し付けられると思っていたが……悪くないではないか」
地平線まで広がっている草原に、眩しくなるほどの青い空。
近くには森や川もあるようだし、のんびり過ごすには悪くない場所だろう。
「この地に人は住んでいるのか? 居住地になってもおかしくない場所ではあるが」
「ううん、いないみたい~。ここでひっそり過ごすもよし、人を招いて賑やかにするもよし……。完全にあなたの自由ってことね」
「ふむ……」
一生分遊んで暮らせる金と、そしてこんなにも豊かな土地。
随分な大盤振る舞いだよな。
改めてレナスの言う“依頼主”とやらの正体が気になるが……まあ、いったんは後回しにしていいだろう。レナス自身、“依頼主”のことはよくわかっていないみたいだしな。
「とにもかくにも、《月詠の黒影》の拠点はここ♡ 決定ね♡」
「ふむ。まあ……いいだろう」
活動の拠点としては悪くない。
当然のことながら、帝都では目立った行動はできないからな。ベイリフが魔族の手にわたっている以上、軽率な動きが命取りになる可能性さえある。
それにしても。
「レナス。どうしておまえは……さっきから俺にくっついているのだ?」
「え?」
彼女は、さっきからずっと……俺の傍を離れないのだ。
いや。《離れない》というレベルではない。
腕を絡ませて、ときにはあざとく自分の身体を押し付けて……過剰なくらいに男心を刺激してこようとするのだ。現に同級生(・・・)のバルフだって、レナスにメロメロだったしな。
「そんなの決まってるじゃない♡ 男の人は、みんなこういうのが好きでしょう?」
「そうか。おまえは俺を落とそうとしているわけだな」
「正解♡ そのほうが色々と活動しやすそうだしね~」
「クク、違いあるまい」
ああ……そうだ。
良い人ぶる必要なんてない。
人はみな、どこかしら腹黒い一面を持ち合わせている。
他人の活躍に賛辞を送っている隣人が、心の底では嫉妬の炎を燃やし。
昨日まで親しくしていた恋人でさえ、より素敵な異性に出会った途端、心変わりが始まっていく。
だったら……最初から本音で話していたほうが、気が楽というもの。
「その意味では、俺たちは似ているのかもしれないな」
「へ?」
「自分の本性を晒し出すのではなく、仮面を被って、相手にとって好ましい自分を演じる。俺たちの本音は……どこにあるのだろうな」
「あ…………」
その瞬間。
俺を掴むレナスの手が……一瞬だけ、離れた気がした。
それだけではない。
妙に大人びている彼女ではあったが、いまこのときだけは――12歳相応の戸惑った顔を浮かべていたのだ。
「ん? どうした」
「ううん、なんでもないの♡」
そうして再び、俺に腕を絡ませる。
「《R》ってば、とってもかっこいいこと言うのね♡ 惚れ惚れしちゃうわ~」
「…………」
これは、仮面を被った者同士の。
「……ふ、お褒めにあずかり光栄だ」
世界を救う物語――になるのかもしれない。
「そう♡ ここが私たちの愛の巣ってとこね~」
下級魔族を倒してから数日後。
俺はレナスの《転移魔法》に連れられて、まったく見知らぬ土地を訪れていた。
――もちろん、依頼主さんもタダであなたに頼むつもりはないそうよ。とりあえず、一生分遊んで暮らせるお金と、ミューラ地方の一部領地をあなたにあげるって――
そう。
この場所は《俺のもの》になる領地であり――《R》としての活動拠点にもなる場所だった。
「ふふ。てっきり荒廃した土地でも押し付けられると思っていたが……悪くないではないか」
地平線まで広がっている草原に、眩しくなるほどの青い空。
近くには森や川もあるようだし、のんびり過ごすには悪くない場所だろう。
「この地に人は住んでいるのか? 居住地になってもおかしくない場所ではあるが」
「ううん、いないみたい~。ここでひっそり過ごすもよし、人を招いて賑やかにするもよし……。完全にあなたの自由ってことね」
「ふむ……」
一生分遊んで暮らせる金と、そしてこんなにも豊かな土地。
随分な大盤振る舞いだよな。
改めてレナスの言う“依頼主”とやらの正体が気になるが……まあ、いったんは後回しにしていいだろう。レナス自身、“依頼主”のことはよくわかっていないみたいだしな。
「とにもかくにも、《月詠の黒影》の拠点はここ♡ 決定ね♡」
「ふむ。まあ……いいだろう」
活動の拠点としては悪くない。
当然のことながら、帝都では目立った行動はできないからな。ベイリフが魔族の手にわたっている以上、軽率な動きが命取りになる可能性さえある。
それにしても。
「レナス。どうしておまえは……さっきから俺にくっついているのだ?」
「え?」
彼女は、さっきからずっと……俺の傍を離れないのだ。
いや。《離れない》というレベルではない。
腕を絡ませて、ときにはあざとく自分の身体を押し付けて……過剰なくらいに男心を刺激してこようとするのだ。現に同級生(・・・)のバルフだって、レナスにメロメロだったしな。
「そんなの決まってるじゃない♡ 男の人は、みんなこういうのが好きでしょう?」
「そうか。おまえは俺を落とそうとしているわけだな」
「正解♡ そのほうが色々と活動しやすそうだしね~」
「クク、違いあるまい」
ああ……そうだ。
良い人ぶる必要なんてない。
人はみな、どこかしら腹黒い一面を持ち合わせている。
他人の活躍に賛辞を送っている隣人が、心の底では嫉妬の炎を燃やし。
昨日まで親しくしていた恋人でさえ、より素敵な異性に出会った途端、心変わりが始まっていく。
だったら……最初から本音で話していたほうが、気が楽というもの。
「その意味では、俺たちは似ているのかもしれないな」
「へ?」
「自分の本性を晒し出すのではなく、仮面を被って、相手にとって好ましい自分を演じる。俺たちの本音は……どこにあるのだろうな」
「あ…………」
その瞬間。
俺を掴むレナスの手が……一瞬だけ、離れた気がした。
それだけではない。
妙に大人びている彼女ではあったが、いまこのときだけは――12歳相応の戸惑った顔を浮かべていたのだ。
「ん? どうした」
「ううん、なんでもないの♡」
そうして再び、俺に腕を絡ませる。
「《R》ってば、とってもかっこいいこと言うのね♡ 惚れ惚れしちゃうわ~」
「…………」
これは、仮面を被った者同士の。
「……ふ、お褒めにあずかり光栄だ」
世界を救う物語――になるのかもしれない。