喪失魔法が(いち)、エンペラーバースト。

 前世ではただの《上級魔法》だったが、今生ではなぜかロストマジックと呼ばれているっぽいからな。

 ここは中二心を優先して、喪失魔法と呼ぶことにした。

《上級魔法》と言ってしまうと、転生者だとバレる恐れもあるからな。保身の意味でも、余計なことを言わないほうが賢明だろう。

 と。

 魔法を発動した瞬間、天空から一筋の火柱が勢いよく降り注いできた。

 それはまさに異次元の速度。
 信じられる速度でもって、火柱が魔族に襲いかかる。

『くっ……! おのれ……っ!』

 だが、さすがは腐っても魔族。
 翼をはためかせ、すんでのところで火柱を避ける

『フハハハ! 馬鹿め! いくらロストマジックといえど、それだけでこの俺を殺せるものか!』


「――ああ。殺せるさ」

 得意げに飛翔する魔族の頭上(・・)で、俺は高らかに笑ってみせた。

 使用している魔法は、空属性の《浮遊》。
 生まれたばかりの頃、両親の前で披露してみせた魔法だな。

『なっ……⁉』
 魔族は今度こそ、ぎょっとした表情で俺を見上げてきた。
『またもロストマジックを使ってくるとは……! 貴様、いったい何者だ……⁉』

「フフ。なあに簡単なことさ。この世に大事なものは努力でも才能でもない。不正(チート)だということだよ……!」

 俺はそう言うなり、眼下の魔族の頭を右手で掴む。

 そのまま勢いよく地面に落下し、地表に魔族の顔面を押し付けた。

『グ……ガガガガ……!』

 下半身をジタバタさせて暴れる魔族だが、不正の力には遠く及ばない。

 俺の手のひらの下で、ずっと動けないままだ。

『オノレ……あり得ぬ……! この俺が、人間ごときに力で及ばぬなどと……!』

「ふ……そうだな。これも不正の力といえよう」

 前世の俺では、さすがに12歳時点で魔族を翻弄する力はなかったからな。前世の力がそのまま受け継がれて――いや、それ以上の力を手に入れた可能性さえある。

「さあ、魔族よ。答えてもらおうか」

 俺は仮面の内側でニヤリと笑いながら、魔族に問いかけた。

失わせた魔法(ロストマジック)についてと、そしてこのタイミングでおまえが襲撃してきた理由について。洗いざらい、話していただこう」

『ふざけるな! 誰が貴様なぞに……!』

「クク、その威勢がいつまでもつかな?」

 グギギギ、と。

 俺は右手の握力を強め、魔族の頭部をさらに強い力で握りしめる。

『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ……!』

「おっと、気絶はさせぬぞ。ほれ」

 言いながら、俺は回復魔法を発動。

 意識が飛びかけた魔族の体力を少量だけ回復させ、気絶を防ぐ。

「気を失いたくてもできず……永遠に頭を締め付けられる苦しみ……。クク、気分はどうかな?」

『あ、悪魔め……! 貴様には人の心がないのか!』

「ああ、とうに失ったね」

 それにしても、いまのは魔族のセリフじゃない気がするが……

 まあいい。やることは変わらないのだから。

「さあ、答えるがいい。このまま口を閉ざすのなら、次なる拷問を――」

『わ、わかった……! 喋る! だから……!』

 ようやく懲りたか。
 次の拷問を試してみてもよかったが……残念だ。

 まあ、次の機会でもいいだろう。

「フフ、それでは答えていただこう。まずはロストマジックについて。魔法を衰退させたのはベイリフだと思っていたが……おまえたちも関わっているのか?」

『あ、ああ。というより、俺たちが――が、ががががががっがががっぁ!』

「ぬ……?」

 なんだ。様子がおかしい。

 さっきまでかろうじて理性を保っていたはずの魔族が、突如にして暴れ始めた。白目を剝き、口から泡を吹き、まるでこれは――

「っ…………!」

 ある予感を抱いた俺は、魔族から手を離し、すぐさまバックステップを行う。

 その瞬間。

 ドォォォォォォォォォオン!

 けたたましい轟音をたて、魔族が突然、大爆発を起こした。しかも俺の見間違いでなければ、身体の内部から破裂していたような……

 一歩間違えれば、俺も爆発に巻き込まれていたかもしれない。

「…………」

 俺の目の前に広がるは、文字通りの焼け野原。
 あれだけやかましかった魔族は、一切の姿もない。

 自爆した――というより、自爆させられたのだろう。

「フ……ハハハハ……」
 その光景を見て、俺は乾いた笑いを禁じえなかった。
「情報隠蔽のため、味方に呪いをかけたか……。どうやらこの事件、思ったより俺を楽しませてくれるかもな」