最上さんから「行くな」と言って追いかけてきてくれることはないんだったと、自分の発言を後悔した。

「もう、最上さん知らない」

自分が悪いのに、なんか涙が止まらない、私は契約上の妻なんだと改めて思い知らされた。

わかってたのに、それでもいいと思ってたのに、涙がとめどもなく溢れて何も見えない。

私は何も考えられずにふらふらっとマンションを出た。

俺はリビングから梨花の気配が消えたのに気づいたのは、しばらく経ってからのことだった。

いつまでへそ曲げてるんだ。

俺は梨花をなだめようと部屋から出てきた。

「梨花、梨花」

リビングにもキッチンにも梨花の部屋にも姿が見えなかった。

梨花、マジでやつを追いかけたのか、リビングのテーブルの上にスマホと財布があった。

俺は慌ててマンションを飛び出した。

「梨花、梨花」

俺のただならぬ態度に慌てた様子でコンシェルジュ佐々木が声をかけてきた。

「最上様、そんなに慌ててどうなさったのですか」

「梨花はどのくらい前にここを通ったんだ」