「二十代の時ですけど……」

「なんで結婚しなかったんだ」

「なんでだろう、もう忘れました」

そこに看護師さんがレントゲンの準備が出来た事を伝えに来た。

「よし、行くぞ」

そう言って最上さんは私を抱き抱えた。

「自分で歩けます」

「また、転ばれたら溜まったもんじゃねえからな」

そう言って最上さんは私をレントゲン室まで運んでくれた。

その様子をじっと見つめていた二つの瞳があった、立花瑞穂さんだった。

「なんなの、あの女、丈一郎さんにあんなに親しげに」

瑞穂は梨花に対して嫉妬の炎を燃やしていた。

丈一郎さんは私のものよ。

私は立花瑞穂、七年前丈一郎さんと結婚までの付き合いをしていた。

婚姻届にサインをすれば丈一郎さんと夫婦になれるはずだった。

丈一郎さんはいつも意地悪な事を言って、私をからかってばかりだった。

それに最上総合病院の跡取りで外科医の仕事が忙しい時期だった。

既に一緒に暮らしていた私は毎晩帰りが遅い丈一郎に耐えられない寂しさを

感じていた。