「遅い、何やってるんだ」

「ごめんなさい、トイレ行ってたんです」

「本当にお前グズだな」

「失礼な、しょうがないじゃないですか、松葉杖だと時間かかるんです、誰も手伝ってくれないし……」

私はじっと最上さんを睨んだ。

「甘ったれた事言ってるんじゃないぞ」

私は頬を膨らませて拗ねて見せた。

グッと最上さんの顔が接近して「キスして欲しいのか、残念ながらここは病院だから今晩まで我慢しろ」と私を見つめた。

「ち、違います」

私は松葉杖を持ち上げて手を左右に振った。

当たり前のことだが、バランスを崩して転倒しそうになった。
「きゃっ」

最上さんは私を抱き抱えてくれた。

「お前はどこまで俺に迷惑掛ければ気が済むんだ」

「迷惑かけたくてかけてる訳じゃありません」

「お前はよく三十九年間一人で生きてこれたな」

「三十九年間一人だった訳じゃありません」

「どう言う事だ」

「私だってプロポーズされた事くらいありますから」

最上さんの顔色が変わった。

「男がいたのか」