「ふっ!」
「――ッ!」
俺の刀を受け、徐々に剣聖の態勢が崩れ始める。
心を落ち着け相手の動作を見極め冷静に対処すれば、おのずとどこを攻めれば良いかわかってくる。
確かに剣聖の剣は凄まじい。
パワーもスピードもある。
だが、攻撃が直線的なのだ。
他の相手ならその圧で押しつぶされてしまうだろうが、冷静に見極められる今の俺には問題ない。
それは剣聖のバックボーンを考えれば答えは見えてくる。
すなわち、剣聖もその本領は魔剣士だということだ。
この時代に魔術を使わないで戦う人間はまずいない。いくら剣に秀でていたとしても、それだけに力を注ぐのは馬鹿げているのだ。どう頑張っても剣より魔術の方が威力・利便性共に上回ってしまうから。
彼らの言う剣術とは、魔術を合わせての技術のことを言っている。
だから、素の剣術には荒さがある。
剣聖のこの剣の実力ならば、きっとある程度の魔術師までは剣だけで完封してきたのだろう。
しかし、それは格下にしか通じない手だ。
戦闘経験という大きな括りでは確かに俺は剣聖に大きく後れを取っている。でも、剣だけを使った戦いに絞れば、俺だって負けていない。
人生のすべてを剣に賭けている俺と、魔術と並行している剣聖。
そのわずかな差が、徐々に俺に流れを引き寄せる。
「はぁ!」
「ッ……確かに本気みたいだな……!」
初めて剣聖の額が歪む。
俺の連撃により、ガンガンと壁際へと追い詰める。
「!」
気付けば、剣聖の背中は壁に触れる。
完全に追い詰めた。
「こりゃまずい」
「はっ!」
「おっと……!」
思い切り横に振りぬいた刀を、剣聖が咄嗟に身を屈め避ける。
瞬間的な魔力の反応。肉体の強化魔術……! とうとう魔術を使わないといけないところまで追いつめた。
避けられた斬撃はそのまま後方の壁に深く切れ込みを刻む。
一気にスピードが加速する剣聖は、下から顎目掛けて掌底を繰り出してくる。
俺はそれを刀の底で受けると、そのままカウンターを合わせて拳を振り下ろす。
加速した剣聖はそれもすんでのところで躱し、俺に向かって前蹴りを決める。
咄嗟に刀でガードするが、強化魔術によって強化された蹴りは威力がかなり上がっており、ズザザと後方へと下がる。
また二人の距離が開く。
剣聖はふぅっと深くため息を吐く。
「予想以上だよ……。まさか魔術なしでの戦いがここまで一方的とは」
「剣だけが俺の生きる道だからね」
「魔術を使わないのか? ……と言うのは、少々野暮のようだ」
剣聖はどうやら察しているようだった。
俺が魔術を使えないことを。
「興味深い。――いいだろう。君の剣術と僕の魔剣士としての技術。君程の剣士は見た事がない。ここで全力を出さないというのは失礼というものだ」
「ここからがあなたの本気って訳ですか」
「その通り。僕は魔剣士。剣術だけではないというところを見せてあげよう」
場の空気がさらにまた一変する。
剣聖と呼ばれる男の魔術。一体どんな物なのか。
だが、俺に魔術を使うのは愚策。
初見殺しの魔術斬り。決めてやる……!
「では――――」
「居たぞ!!」
「こっちだ、切り裂き魔が居る!」
「追いついた!」
「!」
と、俺達が激しい斬り合いをしていた時間で、気付くと騎士達が追い付いてきていた。
次々となだれ込んでくる騎士たち。
あっという間に俺達を囲むようにジリジリと迫ってくる。
「ヴァレンタイン……!」
「剣聖来てたのか」
「おいおい、でもそれでもまだ捕獲できてないって……どうなってるんだ!?」
「剣聖と斬り合ってたのか!?」
今の状況を目の当たりにして、ざわつく騎士達。
そしてその状況は、そのまま恐怖へと変わる。
つまり、切り裂き魔は剣聖でさえ止められないと。
「――全員でかかれ!! 前の方は死ぬ気で耐えろ!! ここで逃せば死人が増えるぞ!」
「そうだ、野放しにしてはいけない! ここで決める!」
「ちょ、ちょっと待ってください!! 俺は!!」
しかし、俺の否定の声も全く届かない。
明らかに場は興奮状態だった。
このままでは、逃げ切れない……!!
大人しく捕まって弁明するか……? いや、でも釈放される保証はない。状況証拠しかないが、恐らく俺が捕まっている間に次の犠牲者が出るまでは牢屋の中だろう。そんなの無理だ。
『ホロウ、ここは逃げた方が……』
「あぁ。でも、この人数相手に……しかも剣聖付きとなると……」
逃げ切れるか? 剣聖の魔剣士としての実力によるか……。
覚悟を決めるしかないようだ。
じりじりと騎士達が寄ってくる。
俺は刀を構え直す。
騎士を牽制しながら、剣聖の相手……骨が折れるな。
――とその時。
「止まれ」
剣聖の剣が、騎士達の前に押しとどめるように差し出される。
「彼は僕の相手だ、手出しは無用だ」
お……?
「ですが……!」
「彼は君たちじゃ勝てない。僕に任せておけ」
そう言って、剣聖は剣を構える。
その圧で、騎士達は無言で後ずさり、道を開ける。
「……名前を聞いておきたいところだが、教えてくれないんだろう?」
「残念ながら」
「仕方ない。……じゃあ、僕の魔術を見せてあげよう」
剣聖は剣をそのまま高く掲げると、魔力を一気に解放する。
これは……かなりデカい魔術……!
「君だから、使うんだ」
「こい……!!」
「――ッ!」
俺の刀を受け、徐々に剣聖の態勢が崩れ始める。
心を落ち着け相手の動作を見極め冷静に対処すれば、おのずとどこを攻めれば良いかわかってくる。
確かに剣聖の剣は凄まじい。
パワーもスピードもある。
だが、攻撃が直線的なのだ。
他の相手ならその圧で押しつぶされてしまうだろうが、冷静に見極められる今の俺には問題ない。
それは剣聖のバックボーンを考えれば答えは見えてくる。
すなわち、剣聖もその本領は魔剣士だということだ。
この時代に魔術を使わないで戦う人間はまずいない。いくら剣に秀でていたとしても、それだけに力を注ぐのは馬鹿げているのだ。どう頑張っても剣より魔術の方が威力・利便性共に上回ってしまうから。
彼らの言う剣術とは、魔術を合わせての技術のことを言っている。
だから、素の剣術には荒さがある。
剣聖のこの剣の実力ならば、きっとある程度の魔術師までは剣だけで完封してきたのだろう。
しかし、それは格下にしか通じない手だ。
戦闘経験という大きな括りでは確かに俺は剣聖に大きく後れを取っている。でも、剣だけを使った戦いに絞れば、俺だって負けていない。
人生のすべてを剣に賭けている俺と、魔術と並行している剣聖。
そのわずかな差が、徐々に俺に流れを引き寄せる。
「はぁ!」
「ッ……確かに本気みたいだな……!」
初めて剣聖の額が歪む。
俺の連撃により、ガンガンと壁際へと追い詰める。
「!」
気付けば、剣聖の背中は壁に触れる。
完全に追い詰めた。
「こりゃまずい」
「はっ!」
「おっと……!」
思い切り横に振りぬいた刀を、剣聖が咄嗟に身を屈め避ける。
瞬間的な魔力の反応。肉体の強化魔術……! とうとう魔術を使わないといけないところまで追いつめた。
避けられた斬撃はそのまま後方の壁に深く切れ込みを刻む。
一気にスピードが加速する剣聖は、下から顎目掛けて掌底を繰り出してくる。
俺はそれを刀の底で受けると、そのままカウンターを合わせて拳を振り下ろす。
加速した剣聖はそれもすんでのところで躱し、俺に向かって前蹴りを決める。
咄嗟に刀でガードするが、強化魔術によって強化された蹴りは威力がかなり上がっており、ズザザと後方へと下がる。
また二人の距離が開く。
剣聖はふぅっと深くため息を吐く。
「予想以上だよ……。まさか魔術なしでの戦いがここまで一方的とは」
「剣だけが俺の生きる道だからね」
「魔術を使わないのか? ……と言うのは、少々野暮のようだ」
剣聖はどうやら察しているようだった。
俺が魔術を使えないことを。
「興味深い。――いいだろう。君の剣術と僕の魔剣士としての技術。君程の剣士は見た事がない。ここで全力を出さないというのは失礼というものだ」
「ここからがあなたの本気って訳ですか」
「その通り。僕は魔剣士。剣術だけではないというところを見せてあげよう」
場の空気がさらにまた一変する。
剣聖と呼ばれる男の魔術。一体どんな物なのか。
だが、俺に魔術を使うのは愚策。
初見殺しの魔術斬り。決めてやる……!
「では――――」
「居たぞ!!」
「こっちだ、切り裂き魔が居る!」
「追いついた!」
「!」
と、俺達が激しい斬り合いをしていた時間で、気付くと騎士達が追い付いてきていた。
次々となだれ込んでくる騎士たち。
あっという間に俺達を囲むようにジリジリと迫ってくる。
「ヴァレンタイン……!」
「剣聖来てたのか」
「おいおい、でもそれでもまだ捕獲できてないって……どうなってるんだ!?」
「剣聖と斬り合ってたのか!?」
今の状況を目の当たりにして、ざわつく騎士達。
そしてその状況は、そのまま恐怖へと変わる。
つまり、切り裂き魔は剣聖でさえ止められないと。
「――全員でかかれ!! 前の方は死ぬ気で耐えろ!! ここで逃せば死人が増えるぞ!」
「そうだ、野放しにしてはいけない! ここで決める!」
「ちょ、ちょっと待ってください!! 俺は!!」
しかし、俺の否定の声も全く届かない。
明らかに場は興奮状態だった。
このままでは、逃げ切れない……!!
大人しく捕まって弁明するか……? いや、でも釈放される保証はない。状況証拠しかないが、恐らく俺が捕まっている間に次の犠牲者が出るまでは牢屋の中だろう。そんなの無理だ。
『ホロウ、ここは逃げた方が……』
「あぁ。でも、この人数相手に……しかも剣聖付きとなると……」
逃げ切れるか? 剣聖の魔剣士としての実力によるか……。
覚悟を決めるしかないようだ。
じりじりと騎士達が寄ってくる。
俺は刀を構え直す。
騎士を牽制しながら、剣聖の相手……骨が折れるな。
――とその時。
「止まれ」
剣聖の剣が、騎士達の前に押しとどめるように差し出される。
「彼は僕の相手だ、手出しは無用だ」
お……?
「ですが……!」
「彼は君たちじゃ勝てない。僕に任せておけ」
そう言って、剣聖は剣を構える。
その圧で、騎士達は無言で後ずさり、道を開ける。
「……名前を聞いておきたいところだが、教えてくれないんだろう?」
「残念ながら」
「仕方ない。……じゃあ、僕の魔術を見せてあげよう」
剣聖は剣をそのまま高く掲げると、魔力を一気に解放する。
これは……かなりデカい魔術……!
「君だから、使うんだ」
「こい……!!」