「凄いわね……まさか剣術だけで……」

 セシリアは倒れているウッドワンを見ながら言う。

「まあ、俺にはこれしかないからね。魔術が使えない分、剣術だけは負けないよ」
「負けないよって……普通は剣なんかで魔術には打ち勝てないんだけど……。というか魔術を斬ってなかった? 今のが魔剣の力なのかしら」
「いや、魔剣の力はまだ引き出せてないんだ。魔術を斬るのは……なんというか俺の特異体質ってやつ」

 セシリアはポカンと口を開け唖然とした表情を浮かべる。

「――はぁ。魔術を斬る……ウッドワンが言った魔断の剣士というのもしっくりくるわね。……まあいいわ。正直魔剣がある時点でもう規格外みたいなものだし。理解の範囲外すぎて考えるだけ無駄ね」
「そんなにかなあ」
「そんなによ。魔剣にしてもその体質にしても、自分の希少性を理解した方がいいわ。……とりあえず謝るわ。勝手に私が守るべきだって考えて結局助けられちゃった」
「い、いや別に気にしてないよ。むしろ助けられてよかった」

 人が殺されるところなんて見たくない。

「――で、ウッドワンはどうする? 殺しておく?」
「こ、殺す!?」

 セシリアはキョトンした顔をする。

「え、だって人殺しよ? そのまま生かしていると私達が危ないと思うけど……。立派な自衛行為よ」
「そ、そうだけど……。……とりあえず拘束してギルドに突き出すのがいいんじゃないかな……と思うけど」
「そう。まあホロウに任せるわ。倒したのはホロウだし」

 こ、怖いなこの子……。言ってることは分からなくないけど……。

『まあ、昔なら普通に殺したけどね。最終的に殺さなきゃいけないっていう場面はいずれ来るわ』

 ……でも今は必要ないと思うよ。

『その優しさはホロウの良いところだけどね』

「……それよりもマンティコアに集中しないと。とりあえずウッドワンは縛り上げておこう」

 俺たちはウッドワンを拘束し、木に縛り付ける。
 峰打ちをくらって気絶しているウッドワンは目覚める気配はまだない。

「さて、じゃあマンティコア討伐を始めま――――」

「グルオオオオオアアアアアアアア!!!!」

「「!?」」

 激しい咆哮が背後より響き渡る。

「な――――」

 ドシン!! 

 地面が揺れる。

 強風が吹き抜け、砂埃が舞う。
 俺達は慌てて顔を覆う。

 目の前に降り立った巨大な魔物。

 全長は三メートル程だろうか、四足歩行の獣。 
 鋭い牙と爪。毒を持った尻尾。その顔は憎しみに満ちたよう獅子にも見える。

 こいつは……。

「マンティコア!」
「さっきの騒ぎで目覚めたのね……」

 セシリアの額に汗が垂れる。

「近づかれ過ぎた……ここでやるしかない!」
「くっ……もっと準備したかったのだけど……ッ!」

 俺は刀を構え、セシリアは後方で杖を構える。

「グォオオオオアオアアアアアアア!!」
「いくぞ……カスミ!」
『ええ、見せてやりましょう!』

 俺は一気にマンティコアへと詰め寄る。

 先手必勝……! 剣豪たちとの空想での斬り合いを思い出せ……!
 魔術を消すだけの魔術師の戦いとは違う、一撃が致命傷になる魔物との戦いだ……!

「ふ……ッ!」

 俺は手始めに刀を振り上げると、全力でマンティコアの顔へ向けて振り下ろす。

「グァアア!!」

 無造作に振り上げたマンティコアの爪と俺の刀が、キンッ!! と激しい音を立てぶつかり合う。

「!」

 硬い……! カスミで切断できないなんて……!

「! グゥゥ……グアアアア!!!」

 マンティコアも爪が受け止められたのは予想外だったのか、力を入れて俺の刀を押し返してくる。

 なんて力……! これが《《本物》》の魔物……! だが!

「霞流剣術――"三閃"ッ!」

 霞流剣術。
 カスミが俺に教えてくれた、剣豪たちの剣技。

 三閃は高速で繰り出す三連の斬撃。

 その高速の剣技はあたかも三本の刀で切り裂いたかのような錯覚を覚えるほどの高速の連撃だ。

 激しく響く甲高い音。

 俺の奥義に耐え切れず、マンティコアの爪は一撃目で揺れ、二撃目でひび割れ、そして三撃目で、その中ほどからパックリと割れた。

「グゥァア!!」

 マンティコアの悲鳴が響く。

 マンティコアは俺を脅威と認定したのか、俺との押し合いを止め後方へと飛びのく。

 その最中尻尾での突き刺しを繰り出してくるが、俺はそれを軽くいなす。

「す、すごい……マンティコア相手に優位に戦えてるなんて……!」
「落ち着いて、ここからだよ。長期戦は分が悪い。一気に畳みかけよう!」
「! ええ、後ろは任せて! サポートする!」

「グォオオオオアオアアアアアアア!!!!」