「美桜ちゃーん!」
パタパタと可愛らしい足音を立てながら声をかけてきたのは、美桜のクラスメイトであり友達の白石茉奈(しらいし・まな)。
黒のふんわりとしたボブカットで、小動物のように丸っこくて愛らしい顔をした子だ。
胡桃とは同じ学校に通っているため可愛らしい妹となにかと比べられることが多い中、美桜を美桜として見てくれる数少ない友人。
だいたいの子達は、私を見ると何か可哀そうなものでも見るかのような目線を送ってくる。
「二人が姉妹だとは思えない」「どうやったら姉妹であんなに差が出るのかしら」「胡桃ちゃんはあんなに可愛らしいのに。」…そんな声ばかりだ。
胡桃は表向きは太陽のように明るい笑顔を振りまきいい子を演じているので、誰しもが胡桃の偽りの愛らしさに惑わされ、彼女を慕う。
胡桃はどうしたら人に好かれるかを、よく知っているのだ。
誰もその仮面に隠された中身を知る由はない。
今も窓から外を見下ろすと、胡桃はたくさんの同級生に囲まれて偽りの笑顔を振りまいている。
「あっ、見て。あれって胡桃ちゃんの彼氏さん?」
茉奈が指を指したほうを見ると、遠くから胡桃に笑顔で手を振りながら近づいていく男子の姿が見えた。
胡桃も花が咲くような笑顔で、手を振り返している。
美桜とは同じ高校2年の松浦祐樹。(まつうら・ゆうき)。胡桃は1年なので、彼女から見ると一つ先輩になる。
つい最近、祐樹から告白して胡桃がオーケーしたらしい。
祐樹は外見もよく頭も良いので、学年では一番の人気者だ。そんな祐樹と胡桃がくっついたとあれば、美男美女カップルだと周りが騒ぐのも自然な流れだった。
「ねぇ、美桜ちゃん。美桜ちゃんには好きな人いないの?」
窓から美桜に視線を戻して、茉奈は問いかけてくる。
とくん、と胸が一瞬高鳴る。
思い出したのは数年前に出会った、あの人のことだった。
その大切な記憶を思い出すかのように、今も手首についている鈴をそっと片手で撫でる。
「……いるよ。」
「へぇ!!どんな人?」
茉奈は興味津々に体を乗り出して聞いてくる。
「瞳がね、琥珀色でとても綺麗なの。それにすごく穏やかで、優しくて…あたたかい人だよ。」
茉奈はうんうん、と頷きながら話に耳を傾けている。
彼のことを思い出して、心にぽかぽかとあたたかいものが込み上げてくる。
しかしふいに昨日の母の言葉を思い出して、それも一瞬にして吹き飛んでしまう。
「でもね、その人とはきっと…結ばれることはないの。」
「えっ?」
美桜は、もう一度窓の外に目を向ける。
そこには幸せそうに笑い合う胡桃と祐樹の姿が目に入った。
美桜は痛みに耐えるように、きゅっと唇を噛みしめる。
胡桃は、好きな人と自由に恋ができるのに。
私は恋さえも、自由にできないのか。
この先の人生すべて、両親に奪われてしまうのだろうか。
もう一度、会いたい。
あの人は今、どこで何をしているんだろう。
私との約束を、覚えてくれているのかな。
どんなに心が傷ついても絶対に壊れることがないのは、あの人との約束があるからだ。
「……信じてる。」
美桜はぽつりと呟くと、胸元で拳をぎゅっと握りしめた。
パタパタと可愛らしい足音を立てながら声をかけてきたのは、美桜のクラスメイトであり友達の白石茉奈(しらいし・まな)。
黒のふんわりとしたボブカットで、小動物のように丸っこくて愛らしい顔をした子だ。
胡桃とは同じ学校に通っているため可愛らしい妹となにかと比べられることが多い中、美桜を美桜として見てくれる数少ない友人。
だいたいの子達は、私を見ると何か可哀そうなものでも見るかのような目線を送ってくる。
「二人が姉妹だとは思えない」「どうやったら姉妹であんなに差が出るのかしら」「胡桃ちゃんはあんなに可愛らしいのに。」…そんな声ばかりだ。
胡桃は表向きは太陽のように明るい笑顔を振りまきいい子を演じているので、誰しもが胡桃の偽りの愛らしさに惑わされ、彼女を慕う。
胡桃はどうしたら人に好かれるかを、よく知っているのだ。
誰もその仮面に隠された中身を知る由はない。
今も窓から外を見下ろすと、胡桃はたくさんの同級生に囲まれて偽りの笑顔を振りまいている。
「あっ、見て。あれって胡桃ちゃんの彼氏さん?」
茉奈が指を指したほうを見ると、遠くから胡桃に笑顔で手を振りながら近づいていく男子の姿が見えた。
胡桃も花が咲くような笑顔で、手を振り返している。
美桜とは同じ高校2年の松浦祐樹。(まつうら・ゆうき)。胡桃は1年なので、彼女から見ると一つ先輩になる。
つい最近、祐樹から告白して胡桃がオーケーしたらしい。
祐樹は外見もよく頭も良いので、学年では一番の人気者だ。そんな祐樹と胡桃がくっついたとあれば、美男美女カップルだと周りが騒ぐのも自然な流れだった。
「ねぇ、美桜ちゃん。美桜ちゃんには好きな人いないの?」
窓から美桜に視線を戻して、茉奈は問いかけてくる。
とくん、と胸が一瞬高鳴る。
思い出したのは数年前に出会った、あの人のことだった。
その大切な記憶を思い出すかのように、今も手首についている鈴をそっと片手で撫でる。
「……いるよ。」
「へぇ!!どんな人?」
茉奈は興味津々に体を乗り出して聞いてくる。
「瞳がね、琥珀色でとても綺麗なの。それにすごく穏やかで、優しくて…あたたかい人だよ。」
茉奈はうんうん、と頷きながら話に耳を傾けている。
彼のことを思い出して、心にぽかぽかとあたたかいものが込み上げてくる。
しかしふいに昨日の母の言葉を思い出して、それも一瞬にして吹き飛んでしまう。
「でもね、その人とはきっと…結ばれることはないの。」
「えっ?」
美桜は、もう一度窓の外に目を向ける。
そこには幸せそうに笑い合う胡桃と祐樹の姿が目に入った。
美桜は痛みに耐えるように、きゅっと唇を噛みしめる。
胡桃は、好きな人と自由に恋ができるのに。
私は恋さえも、自由にできないのか。
この先の人生すべて、両親に奪われてしまうのだろうか。
もう一度、会いたい。
あの人は今、どこで何をしているんだろう。
私との約束を、覚えてくれているのかな。
どんなに心が傷ついても絶対に壊れることがないのは、あの人との約束があるからだ。
「……信じてる。」
美桜はぽつりと呟くと、胸元で拳をぎゅっと握りしめた。