真冬の冷たい空気が、容赦なく体から体温を奪っていく。
美桜はぶるっと身震いをすると、壁にたてかけてある時計を見た。
(いけない、朝ごはんを作らなくては。)
美桜は慌てて飛び起きて手櫛で髪を整え、着替えをする。
早く朝ごはんを作らないと、母親にぶたれてしまう。
そんなことを思いながら支度をしていると、勢いよく部屋のドアが開けられた。
あまりの乱暴な音に、美桜はびくりと肩を震わせる。
恐る恐る振り向くと、そこには目を吊り上げた母親の沙紀(さき)がいた。
「……お母さん。」
沙紀はずかずかと部屋に入ってくると、高圧的な目で美桜を見下ろす。
「いつまで寝てるの?7時半にはご飯ができているようにしなさいって言ってたじゃない。」
畳みかけるように言われ、美桜は一歩後ずさる。
その態度が気に入らなかったのか、沙紀は忌々し気に美桜の髪を引っ張った。
「この痣……あんたの父親を思い出して忌々しいのよ!!化け物の子が!!!」
沙紀には生まれつき、額に三日月型の痣があった。
沙紀の話だと、美桜の実の父親にもこの痣があったらしい。
美桜の父親は龍の妖だったらしく、父親にも同様の痣がある。
しかし美桜が産まれてまもなく父は突然失踪してしまい、その後沙紀は今の父親になる壮一(そういち)と再婚した。
そして沙紀と壮一との間に生まれたのが、妹の胡桃だ。
なので胡桃とは、異父姉妹ということになる。
再婚して胡桃が産まれてからというもの、沙紀は胡桃ばかりを可愛がるようになり、父親とよく顔が似ている美桜のことを化け物でもみるように扱うようになった。
「ふん、まぁ、今日はおめでたい日だから、これで勘弁してあげるわよ。」
沙紀は吐き捨てるようにそう言うと、ぱっと手を離す。
いきなり手を離されバランスを崩した美桜は、尻餅をついてしまう。
「……今日は、なにかあるの?」
おずおずとそう問うと、沙紀は馬鹿にしたようにふっと笑った。
「ありがたく思いなさい。あんたの結婚が決まったのよ。」
「…え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
美桜は言葉の意味が分からず、目をしばたたかせる。
「聞こえなかったの?あんたの結婚、って言ったのよ。あんたも、もう16なんだから相手が必要でしょう。」
「わ、私の……?」
沙紀の話は耳に入ってきているはずなのに、理解が追い付かなかった。
思わず、ぎゅっと胸元で手をきつく握りしめる。
「相手は春樹さんの弟の息子よ。」
春樹、というのは父親の名前だ。
話には聞いたことがあるが、春樹の弟はかなりのお金持ちらしい。
「嫁いでからもあんたには役に立ってもらうわよ、私のお医者さん。胡桃みたいな可愛らしさも何もないあんたの、唯一の取柄なんだから。」
そう言って、沙紀はひんやりとした指先で美桜の顔を撫でる。
その手が気持ち悪くて、思わず顔を背けた。
私はずっとこれからも、この呪縛から抜けられないのかな。
母が死ぬまで、母の代わりとして、この力を使われるのだろうか。
「あんたみたいなケガを治すことしか取り柄がない平凡で不器量な娘をもらってくれる人がいるのだから、あんたは幸せに思わなくては駄目よ。来週紹介する予定だから、楽しみにしてるといいわ。」
そう言って、沙紀は軽やかな足取りで部屋から出て行った。
美桜はぶるっと身震いをすると、壁にたてかけてある時計を見た。
(いけない、朝ごはんを作らなくては。)
美桜は慌てて飛び起きて手櫛で髪を整え、着替えをする。
早く朝ごはんを作らないと、母親にぶたれてしまう。
そんなことを思いながら支度をしていると、勢いよく部屋のドアが開けられた。
あまりの乱暴な音に、美桜はびくりと肩を震わせる。
恐る恐る振り向くと、そこには目を吊り上げた母親の沙紀(さき)がいた。
「……お母さん。」
沙紀はずかずかと部屋に入ってくると、高圧的な目で美桜を見下ろす。
「いつまで寝てるの?7時半にはご飯ができているようにしなさいって言ってたじゃない。」
畳みかけるように言われ、美桜は一歩後ずさる。
その態度が気に入らなかったのか、沙紀は忌々し気に美桜の髪を引っ張った。
「この痣……あんたの父親を思い出して忌々しいのよ!!化け物の子が!!!」
沙紀には生まれつき、額に三日月型の痣があった。
沙紀の話だと、美桜の実の父親にもこの痣があったらしい。
美桜の父親は龍の妖だったらしく、父親にも同様の痣がある。
しかし美桜が産まれてまもなく父は突然失踪してしまい、その後沙紀は今の父親になる壮一(そういち)と再婚した。
そして沙紀と壮一との間に生まれたのが、妹の胡桃だ。
なので胡桃とは、異父姉妹ということになる。
再婚して胡桃が産まれてからというもの、沙紀は胡桃ばかりを可愛がるようになり、父親とよく顔が似ている美桜のことを化け物でもみるように扱うようになった。
「ふん、まぁ、今日はおめでたい日だから、これで勘弁してあげるわよ。」
沙紀は吐き捨てるようにそう言うと、ぱっと手を離す。
いきなり手を離されバランスを崩した美桜は、尻餅をついてしまう。
「……今日は、なにかあるの?」
おずおずとそう問うと、沙紀は馬鹿にしたようにふっと笑った。
「ありがたく思いなさい。あんたの結婚が決まったのよ。」
「…え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
美桜は言葉の意味が分からず、目をしばたたかせる。
「聞こえなかったの?あんたの結婚、って言ったのよ。あんたも、もう16なんだから相手が必要でしょう。」
「わ、私の……?」
沙紀の話は耳に入ってきているはずなのに、理解が追い付かなかった。
思わず、ぎゅっと胸元で手をきつく握りしめる。
「相手は春樹さんの弟の息子よ。」
春樹、というのは父親の名前だ。
話には聞いたことがあるが、春樹の弟はかなりのお金持ちらしい。
「嫁いでからもあんたには役に立ってもらうわよ、私のお医者さん。胡桃みたいな可愛らしさも何もないあんたの、唯一の取柄なんだから。」
そう言って、沙紀はひんやりとした指先で美桜の顔を撫でる。
その手が気持ち悪くて、思わず顔を背けた。
私はずっとこれからも、この呪縛から抜けられないのかな。
母が死ぬまで、母の代わりとして、この力を使われるのだろうか。
「あんたみたいなケガを治すことしか取り柄がない平凡で不器量な娘をもらってくれる人がいるのだから、あんたは幸せに思わなくては駄目よ。来週紹介する予定だから、楽しみにしてるといいわ。」
そう言って、沙紀は軽やかな足取りで部屋から出て行った。