その日、夕飯を食べ終わった美桜は、星夜と共にお茶菓子のケーキを食べながらお茶を飲んでいた。
星夜の美しい顔が目の前にある。
最初は向かい合わせに座るのはとても緊張したけれど、今ではだいぶ慣れてきた。
「やはり美桜が淹れてくれたお茶は旨いな。」
「本当?でも私が淹れたからじゃなくってお茶が美味しいのよ。」
「いいや、美桜が淹れてくれたやつだからこそ旨いんだ。」
星夜は頑として意見を変えない。
星夜は普段はとてもクールだが、美桜の前ではたまにこうして子供っぽい一面も見せる。
美桜にだから見せてくれる顔なのかと思うと、嬉しいと思ってしまう。
思わず顔が緩んでいたようで、星夜は「なんで笑うんだ」と唇を尖らせる。
そんな顔でさえ、可愛いなと感じてしまうのはどうしてなのだろうか。
自分で自分の感情がよく分からなかった。
けれど、星夜とのこういうまったりとした時間は嫌いではない。
むしろ、とても心地が良かった。
「美桜……美桜は、学校に行きたい?」
星夜との静かに流れる無言の時間に浸っていると、ふいに星夜から問われる。
突然の問いに、美桜は目をぱちくりとさせた。
ぱっと思い浮かんだのは、茉奈の顔だった。
茉奈は今、どうしているだろうか。
突然私が学校に来なくなって、どう思っているだろう。
元気にしているのかな……。
茉奈も美桜と同じで、友達と呼べる子がいなかった。
美桜がいなくなった今、茉奈は心細い思いをしているかもしれない。
そう思うと、いても経ってもいられなかった。
「うん…行きたい、かな。大事な大事な友達がいるの。その子に何も話さずに出てきちゃったから気になってて。スマートフォンも実家に置いてきちゃってるから連絡も取れなくって。」
「スマートフォン?」
どうやら星夜は、スマートフォンというものを知らないらしかった。
あやかし界では、スマートフォンは使わないのだろうか。
美桜は持っていた紙でスマートフォンの絵を書きながら星夜に説明する。
星夜はものめずらしそうにうんうんと頷きながら話を聞いていた。
「へぇ、人間界ではこういうものがあるんだね。あやかし界では全部妖力を込めた札を使って緊急の連絡を取るから、そういうものは必要ないからな。」
「そうなんだ。」
「…とにかく美桜の言いたいことは分かった。スマートフォンとやらについては誰かにこっそり取りに行かせよう。それについてはまったく問題はない。だが…。」
そう言うと、星夜は眉を寄せて難しい顔をした。
星夜の言いたいことが理解できた美桜はきゅっと唇を結ぶ。
星夜はそんな美桜の頭を優しく撫でてくれる。
大きくてあったかい掌。
その手が撫でてくれるたび、美桜の心が洗われていくような気がした。
美桜が落ち着いたのを見計らって、星夜は続きを口にする。
「行くのはいいのだが……あそこにはお前の妹がいるだろう。」
「……そうなんだよね。」
「せっかくあの家族から引き離したのだ、俺としてはお前をまた苦しい目に合わせたくない。」
壊れ物に触れるように、星夜の手が頭から頬に移り、優しく撫でていく。
その手がくすぐったくて、思わず目を閉じる。
滲み出る星夜の優しさに、美桜の瞳がじんわりと熱を帯びていった。
その言葉だけで十分だった。
たしかに家族にされてきたことを思い出すと、今でも体が震えるほど怖い。
できれば、顔も合わせたくはない。
でも星夜がいれば、どんなことでも耐えられると思った。
「ありがとう、星夜。…でも私大丈夫だよ。」
星夜はしばらく考え込むような顔をしていたが、決意を固めたように美桜を見つめ返した。
「美桜がそういうのなら、分かった。ただし、一つ条件がある。」
「条件?」
「学校に行くのはもう少しだけ待っててくれ。それと……それをしばらく貸してくれ。」
そう言うと、星夜は美桜の手首を指差した。
「鈴を?」
「そうだな…一週間ほどでいい。」
「分かった。」
美桜は右手につけていた鈴を星夜に手渡す。
星夜は鈴を見つめると、大切なものを扱うようにぎゅっと握りしめた。
「美桜のことは、俺が絶対に守る。」
美桜はつい、もっていたお茶を落としそうになった。
星夜の綺麗な顔で見つめられ、そんなことを言われては心臓がもたない。
「……ありがとう。」
美桜は蚊の鳴くような声で、そう答えるしかなかった。
星夜の美しい顔が目の前にある。
最初は向かい合わせに座るのはとても緊張したけれど、今ではだいぶ慣れてきた。
「やはり美桜が淹れてくれたお茶は旨いな。」
「本当?でも私が淹れたからじゃなくってお茶が美味しいのよ。」
「いいや、美桜が淹れてくれたやつだからこそ旨いんだ。」
星夜は頑として意見を変えない。
星夜は普段はとてもクールだが、美桜の前ではたまにこうして子供っぽい一面も見せる。
美桜にだから見せてくれる顔なのかと思うと、嬉しいと思ってしまう。
思わず顔が緩んでいたようで、星夜は「なんで笑うんだ」と唇を尖らせる。
そんな顔でさえ、可愛いなと感じてしまうのはどうしてなのだろうか。
自分で自分の感情がよく分からなかった。
けれど、星夜とのこういうまったりとした時間は嫌いではない。
むしろ、とても心地が良かった。
「美桜……美桜は、学校に行きたい?」
星夜との静かに流れる無言の時間に浸っていると、ふいに星夜から問われる。
突然の問いに、美桜は目をぱちくりとさせた。
ぱっと思い浮かんだのは、茉奈の顔だった。
茉奈は今、どうしているだろうか。
突然私が学校に来なくなって、どう思っているだろう。
元気にしているのかな……。
茉奈も美桜と同じで、友達と呼べる子がいなかった。
美桜がいなくなった今、茉奈は心細い思いをしているかもしれない。
そう思うと、いても経ってもいられなかった。
「うん…行きたい、かな。大事な大事な友達がいるの。その子に何も話さずに出てきちゃったから気になってて。スマートフォンも実家に置いてきちゃってるから連絡も取れなくって。」
「スマートフォン?」
どうやら星夜は、スマートフォンというものを知らないらしかった。
あやかし界では、スマートフォンは使わないのだろうか。
美桜は持っていた紙でスマートフォンの絵を書きながら星夜に説明する。
星夜はものめずらしそうにうんうんと頷きながら話を聞いていた。
「へぇ、人間界ではこういうものがあるんだね。あやかし界では全部妖力を込めた札を使って緊急の連絡を取るから、そういうものは必要ないからな。」
「そうなんだ。」
「…とにかく美桜の言いたいことは分かった。スマートフォンとやらについては誰かにこっそり取りに行かせよう。それについてはまったく問題はない。だが…。」
そう言うと、星夜は眉を寄せて難しい顔をした。
星夜の言いたいことが理解できた美桜はきゅっと唇を結ぶ。
星夜はそんな美桜の頭を優しく撫でてくれる。
大きくてあったかい掌。
その手が撫でてくれるたび、美桜の心が洗われていくような気がした。
美桜が落ち着いたのを見計らって、星夜は続きを口にする。
「行くのはいいのだが……あそこにはお前の妹がいるだろう。」
「……そうなんだよね。」
「せっかくあの家族から引き離したのだ、俺としてはお前をまた苦しい目に合わせたくない。」
壊れ物に触れるように、星夜の手が頭から頬に移り、優しく撫でていく。
その手がくすぐったくて、思わず目を閉じる。
滲み出る星夜の優しさに、美桜の瞳がじんわりと熱を帯びていった。
その言葉だけで十分だった。
たしかに家族にされてきたことを思い出すと、今でも体が震えるほど怖い。
できれば、顔も合わせたくはない。
でも星夜がいれば、どんなことでも耐えられると思った。
「ありがとう、星夜。…でも私大丈夫だよ。」
星夜はしばらく考え込むような顔をしていたが、決意を固めたように美桜を見つめ返した。
「美桜がそういうのなら、分かった。ただし、一つ条件がある。」
「条件?」
「学校に行くのはもう少しだけ待っててくれ。それと……それをしばらく貸してくれ。」
そう言うと、星夜は美桜の手首を指差した。
「鈴を?」
「そうだな…一週間ほどでいい。」
「分かった。」
美桜は右手につけていた鈴を星夜に手渡す。
星夜は鈴を見つめると、大切なものを扱うようにぎゅっと握りしめた。
「美桜のことは、俺が絶対に守る。」
美桜はつい、もっていたお茶を落としそうになった。
星夜の綺麗な顔で見つめられ、そんなことを言われては心臓がもたない。
「……ありがとう。」
美桜は蚊の鳴くような声で、そう答えるしかなかった。
