通所して一週間経ったぐらいか。
 僕は毎日緊張の連続で、ヘトヘトになっていた。

 ただ、今書きだしているラブコメ「気にヤン」に関しては、権利関係で、どうやら作業所で執筆するのは良くないと聞いた。
 作業所で作るものは、工賃として計算されるため、基本は一次創作で、尚且つ収入になるものを作る。
(福祉が関わるから、あまりエチエチなものは作れない。役所に怒られるらしい)

 つまり、作業所が持ってきた案件を僕たち利用者が作って収益にあてる。

 これがすごく難しいと感じた。

 例えば、僕の場合、自身の小説「気にヤン」の文章を誰かに見せてスキルアップしたかったのに、著作権が曖昧になってしまう。
「気にヤン」を納品してしまえば、著作権が運営の管理になるという恐れがある。
 それは僕も底辺作家とはいえ、自分の作品だから、嫌だった。

※この辺に関しては、とても曖昧です。当時の情報ですし、運営に言えば、自作の執筆活動を無視してくれることもあります。

 仕方ないと思い、僕は作業所の収益になるようなことを、自分で出来ることを考えてみた。
 文章力には本当に自信がなかったけど、小説で作業所の宣伝、私小説でも書いたらどうだろう。
 それを幹部である斑済さんに相談すると。
「いいじゃん。味噌村さん、書いてよ」
「じゃあ、やってみます! それに伴い、スタッフさんとか登場させてもいいですか?」
「全然いいよ。書いて書いて」
「わかりました」

 斑済さんはああ言っていたけど、僕の作風はちょっとブラックユーモアな感じだと思っていたので。
 実際の人間をいじる行為は、人によって、傷つけてしまう恐れがある。
 だから、ちゃんと一人ひとりに許可を得ることにした。

 斑済さんから許可を得たので、次は所長の天拝山さん、副所長の犬ヶ崎さんにも許可をもらえた。
 とりあえず、利用者さんはみんなコミュ障な人が多いので、やめておく。
 あとは、イラスト講師の熟田さんだけだ。

 しかし、ためらいがある。
 相手は若い女性だ。多分、オタクサイドじゃない。

 今、初見で感じた第一印象でスタッフを描いてみる。

 斑済さんは、得体の知れないおっさん。多分、酒好き。中洲とか好きそう。
 天拝山さんは、「ガハハハッ」うるさく笑うおっさん。多分、元ヤン。とんこつラーメン好きそう。
 犬ヶ崎さんは、筋トレばっかやってる脳筋青年。なんかニチアサとかをコソコソ見てそうな隠れロリコン。

(こんな感じかな)

 スマホの画面を思い切って、犬ヶ崎さんに見せてみる。
 すると彼は
「ハハハ! これ、俺っすか?」
「はい……傷ついていないですか」
「いやぁ。物書きの人が想像すると、俺ってこんなんですね。おもしれぇ!」
 意外と、心広いんだなぁと思った。
「あ、味噌村さん。ニチアサ見ているのは間違いないっすけど……俺、そんなに若くないっすよ!」
「え?」
「俺、味噌村さんより二個下のおっさんすよ? ニチアサは娘と見てます」
(ファッ!?)
 そう言ってマスクを外して見せてくれた。確かに目元だけ見ると若く見えるのだが、口元見ると昭和世代て感じだった。
 だからか、一気に親近感が沸いた。
 同じ世代だし、妻子持ちだし。

 それから話は変わり。
「ていうか、熟田さんがいないじゃないっすか? ヘヘヘ」
「それなんですけど……まだ許可取れてないんですよ。相手は女性ですし、僕のブラックジョークが通じるか不安で……」
 すると彼は笑って僕の肩をバシバシと叩く。
「言えばいいじゃないっすか~!」
「あ、いや。なんか熟田さんってちょっと目つき怖いし、近寄りがたいです……」
「味噌村さんの考えすぎっすよ! じゃあちょっと今、熟田さんの第一印象を俺にこっそり教えてみてくださいよ!」
 僕は覚悟を決めた。

 今、熟田さんは奥のキッチンとかに行っているはずだ。
 これはチャンス。
 小声で、犬ヶ崎さんに僕の妄想を伝える。

「熟田さんは……腐女子ぽく見える時があります。あの鋭い眼光で、推しのアニメキャラを毎週食い入るように見る感じで……例えば、推しの男性キャラがヒロインと結婚したら、原作本とか円盤を破って燃やしたりしてそうです」
(言ってしまった……)
「超おもしれぇ! それ、いいじゃないっすか!」
「え、本当ですか?」
「聞きゃいいんすよ! ねぇ、熟田さん。いいでしょ?」
 気がつくと、後ろに熟田さんが立っていた。
(ぎゃあああ! 聞かれてたぁ!)

「え、私ですか……」
 鋭い眼光で、僕を睨みつける。
 怒っているのかと思った。
 ムスッとして、黙って自分のデスクに座る熟田さん。

 僕は恐る恐る彼女に許可を取ろうとした。
「あ、あの……熟田さん。今の感じで描いてもいいんですか?」
 熟田さんは僕を見るわけでもなく、視線は下のまま、黙って頷く。
 目がものすごく怖い。
「ほらぁ、味噌村さんの考えすぎですって! 好きなように書けばいいんすよ!」
 そう言って犬ヶ崎さんは、僕の肩をバシバシと叩く。

 しかし、僕の第一印象はほぼ当たっていた。

 後々、スタッフの人に
「好きなアニメキャラや芸能人を3人、あと嫌いなキャラを1人教えてください」
 と伝えていた。

 小説のキャラの設定作りのために、必要だと感じたからだ。

 熟田さんにも同様の質問をすると……。
「わかりました。考えておきます」
 相変わらず、目つきが怖いと思った。

 そして、終業後。
 僕は作業所にあったウォーターサーバーから冷たい水をコップに注ぎ。
(20年ぶりの仕事あとのお水は、うまいお!)
 なんて考えていると……。

 熟田さんが近寄ってきた。
「味噌村さん。私、考えてきました」
「あ、今メモるんで、どうぞ……」
 僕はジーパンからスマホを取り出し、メモの用意をした。
「えっと……エロゲーなんですけどいいっすか?」
「ブフーーーッ!」
 思わず吹き出してしまう。

「な、なんですって……?」
「エロゲの『にゅるぽ学園』! それのこいつっす!」
 めっちゃキレている。
 スマホで映し出されたのは、18禁の萌え絵だ。
「こいつ、誰が攻略するんだってぐらい、ムカつくんすよ!」
「はぁ?」
「あと、こいつも! 『むふふライフ』のこいつ! この女も嫌い!」
「えぇ……」
「それから、こいつとこいつとこいつも……可愛くないし、攻略めんどくさいし!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 情報量が多すぎて」
 スワイプする余裕もくれない熟田さん。
 聞いてもないことまで、延々喋り出す。
 話の流れからして、僕は察した。

「あの……熟田さんって、失礼ですけど腐女子ですか?」
 熟田さんはまだ喋り足りないようだった。
 キョトンとした顔で答えてくれる。
「そうですよ? はい、私が腐女子です。それ以外のなんだと思ってたんですか?」
「……」

 すごく疲れた。