時は来た。
 10月1日だ。
 僕は緊張しすぎて、睡眠不足だった。

 早速、作業所に朝一番に着く。

 事務所内は、斑済さんや天拝山さん、それにガチムチ青年の犬ヶ崎さん。
 その他にもたくさんのスタッフが応援として、駆けつけていた。

 見学の時にはいなかった利用者の人も何人かチラホラと。
 まだ開所したてだから、6人ぐらいしか来てなかった。

 ボーッとしていると、一人の中年女性が声をかけてきた。
「はじめましてぇ~ 私、運営のものだけど、君はなにを志望しているの?」
「え、ラノベ……しょ、小説っす」
「ふーん、すごいねぇ。ところで、職員を紹介したいんだけど、今いいかな?」
「はぁ……全然いいですよ」
 振り返ると、その中年の女性の隣りに、大人しそうな若い女性が一人。

「ほらほら、利用者さんに紹介して」
「あの、私。今日から配属されました。熟田(うれた) 蓮根(れんこん)です!」
「ん……」
(聞き覚えのある名だな。あ、この前、斑済さんが言っていた例の美大のねーちゃんか)

「あ、美大の方ですよね?」
 僕がそう答えると、熟田さんはビックリしていた。
「えぇ! な、なんで私のことを知っているんですか?」
「ああ……この前見学で斑済さんが、蓮根ちゃんって言ってたから……」
 二人して、斑済さんの方を見るが、なぜか彼は知らんぷり。

「私、日本画を書いてるっす! 味噌村さんは興味ありますか?」

 この時、僕は今のところ、小説の講師がいないと聞いていた。
 斑済さんに「なにを習いたいか?」と問われ、僕は「全部です!」と答えていた。
 小説のネタになりそうなものは、全部吸収しておきたいと思ったからだ。

 正直、熟田さんが日本画なんていうから、オタク文化とは縁のないめっちゃお堅い女子だなと思った。

「面白そうですね。ぜひ教えてもらいたいです」
 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「本当ですか!? じゃあ、一緒に日本画を頑張りましょう!」

 一体、いつになったら、オタクっぽいことを習えるんだろうと、不安になった。