日にちは、9月26日。
 天気はカラッとした真夏という感じで。
 眩しい日差しが肌に突き刺すような痛みを感じさせる。

 数年前、博多駅周辺の道路では、巨大な穴が開いてしまったという。
(これ、また開かないよな……)
 そんなことを思いだしながら、僕は道路を一人歩く。
 傘をさして。
 雨が降っているからではない。
 僕は肌が弱いので、日傘をさすのだ。

 だが、指定された場所に来たが、全然わからない。
 仕方ないので、億劫だったが、作業所に電話してみることにした。
(あの「ガハハハッ!」笑う人が出たら怖いなぁ)

 電話に出たのは、すがすがしいほどに、元気な声の青年だった。
「もしもし! どうしましたか!?」
「あ、あの……場所がわからなくて。どこを目指せばいいんですか?」
「あっ! それなら俺が今から迎えに行くっす!」
「いや、場所さえ教えてくれたら……」
 さすがに悪いと思って、断りを入れようとしたのだが。
「任せてください! 秒で着くんで!」
 ブチンッと一方的に切られてしまった……。

 なんて、暑苦しいお兄さんなんだろう。
 と思っていると、本当に秒でガタイの良い青年が走ってきた。

「あの! 味噌村さんですか!?」
(電話よりも声がでかい)
「は、はい……すいません。走らせたんじゃないですか?」
「これぐらい鍛えてるんで、問題ないっす! さあ、案内しますよ!」

 背は180センチほどか。
 髪型はパーマかけて毛先も遊んじゃって、胸板も厚いし。
 リア充のお兄ちゃんって感じだなぁと思った。
 しかし、この人が僕に小説を教えてくれるんだろうか?
 
 そんなことを考えていると、すぐに現地へ着く。

 作業所の中は、今まだに見たことないぐらいの綺麗な事務所だった。

 最新のゲーム機、巨大なテレビモニター、ハイスペックなゲーミングパソコン、板タブ、液タブ。
 おまけにフィギュアがたくさん並べてあって。

「オタクの聖地やぁ!」

 なんて、誰かが見たら叫びそうな場所。

「味噌村さん! 俺、ここの職員で犬ヶ崎(いぬがさき) 犬歩(わんぽ)っていいます!」
「は、はぁ……」
「ちょっと待っててください! 所長の天拝山さんを連れてくれるんで!」

 しばらく待っていると、電話の向こうで「ガハハハッ!」笑っていたおじさんが現れた。
「奥の個室で面談しますか、ガハハハッ!」
 よく笑う人だなと思った。

 個室に入って、僕は事前にパソコンで作成していた書類を見せ、質疑応答が始まる。
 僕の目的はこうだ。

 1、20年ぐらい社会と交流していないので、いろんな人と交わってみたい。
 2、小説を習いたい。
 3、お金はいらない。交通費と食事だけもらえればいい。

 それらの希望を伝えると、天拝山さんは首を横に振る。
「味噌村さん、賃金はもらわないとダメです」
「いやぁ、自信がないんですよ……続けられる自信が。だからお金もらいたくないんです……」

 すると奥から一人の男性が現れた。

「天拝山さん。僕も入っていいかな?」
 全身真っ白で、マスクまで白い。
 見たところ、海外製のハイブランドでおしゃれな人といった感じ。
 というか、胡散臭い。
 今まで見てきた福祉関連の人と比べると、セレブ感が半端ない。


「はじめまして。僕、運営に携わっている斑済(ぶちずみ) 縁男(ぶちお)と言います」
「あ、味噌村です……」

 この時、僕は思った。
(このおっさん、すげぇ金持ってそうだなぁ。ヤーさんじゃないのか?)

 だが、斑済さんも同時に思ったらしい。
(この人、某オタク学校と間違えてやせんか? 全然障がい者らしくないのう)