「これは京様から頂きました」
「そうなんだ。珍しいなぁ、京君が誰かにプレゼントか…」
何かを考えるような素振りを見せ、翔はつばきの手を掴んだ。
「えっ…―」
「へぇ、これは…かなり高級な指輪だね」
指輪を見るためとはいえ、手に触れられビクッと体を揺らす。
いつの間にか緋色の瞳の話題から指輪の話題へと変わっていた。
「京君は君に夢中なのかな」
大きくかぶりを振った。何を言うのかと思った。そんなわけないじゃないかと思いながらも翔が冗談で言っていることはわかっていた。そこまで真剣に否定しなくともいいのだ。
「はは、君は凄く…何というか、可愛いね。反応が」
「っ…」
「京君が夢中になるのもわかる気がするなぁ」
そう笑う翔に戸惑いながら瞬きを繰り返す。
からかわれているのだとわかっていても、慣れない言葉や仕草に戸惑う。
「お願いがございます」
「うん?」
「あの紙の件は秘密にしていただけませんか、京様には…」
「あぁ、君について書かれてあったことを?それともこの紙がばら撒かれてあったことを?」
ばら撒かれてあったことです、と伏し目がちに言った。
「京様は既に緋色の目については知っております。これがばら撒かれていたことを知られると…迷惑がかかります。おそらく私へ恨みを持っている者がしたことだと思いますので京様に何か被害が及ぶ可能性はゼロだと思います」
「いいよ、わかった。でも女中たちはもう知ってるんでしょ?口止めするのって大変だと思うんだけど…」
「…それは、」
と。
「それは許されません」
「みこさん…」
襖が開き、どこから聞いていたのか不明だがみこが現れた。
「女中たちへの口止めならば私が何とかできる範囲ですが、京様に知らせないというのはルール違反です。何かあれば些細なことでも報告するのが私の仕事ですから」
「そうだよね。女中頭のみこさんがこういうなら仕方ないよ。それにどうせなら犯人探してもらった方がいいと思うよ」
「…でも、」
珍しくつばきの中では譲れない思いがあった。
―ここを出ていくしかない。
それだけは変わらない決意ではあったが、どうしても迷惑を掛けたくはなかった。
きっと彼ならば犯人を捜そうとするだろう。そうすれば費用も時間もかかるだろう。
忙しい京にそれをさせることはしたくはなかったし、これはつばきの問題だ。
早いうちにここを出よう、買われた身でありながら勝手にここから出るのは間違っている。
でも、誰かに迷惑がかかる前に、早く。
「あの、みこさん、お願いします!京様には…っどうか、話さないでいただけないでしょうか。紙がばら撒かれていた程度の“悪戯”です。大したことはございません。それにこれは私へのいたずらです。京様に危害が加えられる可能性はほぼないと思っております」
「…ですが、京様はあなたのことも相当大切になさっています。私はつばきさん、あなたにも何かあれば困るのです。私は京様に一生仕えると決めてここにいます、京様のことを第一に考え仕事をしているのです」
「そうなんだ。珍しいなぁ、京君が誰かにプレゼントか…」
何かを考えるような素振りを見せ、翔はつばきの手を掴んだ。
「えっ…―」
「へぇ、これは…かなり高級な指輪だね」
指輪を見るためとはいえ、手に触れられビクッと体を揺らす。
いつの間にか緋色の瞳の話題から指輪の話題へと変わっていた。
「京君は君に夢中なのかな」
大きくかぶりを振った。何を言うのかと思った。そんなわけないじゃないかと思いながらも翔が冗談で言っていることはわかっていた。そこまで真剣に否定しなくともいいのだ。
「はは、君は凄く…何というか、可愛いね。反応が」
「っ…」
「京君が夢中になるのもわかる気がするなぁ」
そう笑う翔に戸惑いながら瞬きを繰り返す。
からかわれているのだとわかっていても、慣れない言葉や仕草に戸惑う。
「お願いがございます」
「うん?」
「あの紙の件は秘密にしていただけませんか、京様には…」
「あぁ、君について書かれてあったことを?それともこの紙がばら撒かれてあったことを?」
ばら撒かれてあったことです、と伏し目がちに言った。
「京様は既に緋色の目については知っております。これがばら撒かれていたことを知られると…迷惑がかかります。おそらく私へ恨みを持っている者がしたことだと思いますので京様に何か被害が及ぶ可能性はゼロだと思います」
「いいよ、わかった。でも女中たちはもう知ってるんでしょ?口止めするのって大変だと思うんだけど…」
「…それは、」
と。
「それは許されません」
「みこさん…」
襖が開き、どこから聞いていたのか不明だがみこが現れた。
「女中たちへの口止めならば私が何とかできる範囲ですが、京様に知らせないというのはルール違反です。何かあれば些細なことでも報告するのが私の仕事ですから」
「そうだよね。女中頭のみこさんがこういうなら仕方ないよ。それにどうせなら犯人探してもらった方がいいと思うよ」
「…でも、」
珍しくつばきの中では譲れない思いがあった。
―ここを出ていくしかない。
それだけは変わらない決意ではあったが、どうしても迷惑を掛けたくはなかった。
きっと彼ならば犯人を捜そうとするだろう。そうすれば費用も時間もかかるだろう。
忙しい京にそれをさせることはしたくはなかったし、これはつばきの問題だ。
早いうちにここを出よう、買われた身でありながら勝手にここから出るのは間違っている。
でも、誰かに迷惑がかかる前に、早く。
「あの、みこさん、お願いします!京様には…っどうか、話さないでいただけないでしょうか。紙がばら撒かれていた程度の“悪戯”です。大したことはございません。それにこれは私へのいたずらです。京様に危害が加えられる可能性はほぼないと思っております」
「…ですが、京様はあなたのことも相当大切になさっています。私はつばきさん、あなたにも何かあれば困るのです。私は京様に一生仕えると決めてここにいます、京様のことを第一に考え仕事をしているのです」