深淵なる未来
「エクレアと、上手くいってるみたいですね。 」
「ううむ。思った以上に相性が良いようだな。 」
大木は唸った。
世界の命運を新谷とエクレアに託したものの、一抹の不安を感じ始めていた。
2人が楽しそうにすると、反比例して不安がのしかかる。
スパコンのキーボードを叩きながら、村山も渋い顔をする。
乾いたキータッチと、ファンの音だけが甲高く響く。
2人しかいない研究所は、いつもよりさらに広く、荒涼としたサイバー空間と化した。
「ぶっちゃけ、結末はどうなるんですか。 」
深いため息をつき、唐突に村山が聞いた。
しばらく沈黙した。
大木は、しきりに唸っている。
地下空間に広がる冷めた空気が、肺を重く押しつぶすように淀む。
呼吸が浅く、速くなっていく。
「うむ。そうだな。なあ。村山君。人生の価値は、密度だとは思わんかね。 」
苦しそうに言葉を絞り出す。
「まったくその通りですよ。人生は長さではありません。大事を成し遂げ、走り切った人生は素晴らしいものです。私は自分の力を試そうと、この仕事を選んだのですから。 」
村山は手を止め、大木を横目で見た。
「私にも、行く末は分からんのだよ。ただ……。 」
「ただ? 」
「罪の意識はある。 」
「兵器を開発しているのですからね。我々は、手を血で汚すかも知れません。 」
「しかも、ギガトン級の罪だ。 」
暗い眼をした大木が、作業台を拳で叩いた。
「新谷君に、度々問い質されて、お辛い気分だったでしょうね。 」
「違うのだ。最も畏れているのは、新谷君とエクレアの心を深く抉ることだ。核戦争は、政治的問題だ。我々の責任は半分だよ。 」
プロジェクトを始めて3年。
ロボット開発にかける情熱だけで、走り続けてきた。
決して簡単ではない問題を、3人力を合わせて次々に乗り越え、完成に漕ぎつけた。
だが、この先は様々な思いが交錯し、エクレアを翻弄していくだろう。
「ロボット兵器に、複雑な人間の感情を持たせるなど、愚の骨頂なのかも知れん。 」
「矛盾してますよね。消滅する運命にあるなら、感情などない方が良い。 」
「自爆テロで命を捧げる人間には、信念がある。だが、ロボットには……。 」
「2人がKIZAに入りました。帰って来ますよ。笑って迎えましょう。 」
「エクレアを狙う、テロ組織、武器商人なども出てくるだろう。いや。憶測で考えても、気を病むだけだ。村山君の言う通り。2人を温かく迎えるとしよう。 」
入口に乾いた足音が響いた。
生体認証を通ると戸が開き、新谷が姿を見せた。
「ただ今帰りました。 」
「ははっ。凄い荷物だな。今夜はぬいぐるみに囲まれて寝るんだな。 」
エクレアが、沢山の包みを作業台に置くと、3人に向けて深々と礼をした。
「私を作っていただいて、ありがとうございます。今日一日は、私にとって忘れられない日になりました。 」
大木は涙を噛み殺した。
「なんだい。改まって。これからも頼むよ。君たちは世界を左右するプロジェクトの中心にいるのだからね。 」
「よっ。しゅうっぴ。色男。夕飯にしよう。土産話も聞きたいしな。 」
いつものように、作業台へ木崎が夕食を運んできてくれた。
「さあ、今日はお祝いだ。しゅうっぴとエクニャの前途に乾杯しよう。 」
5人で食卓を囲み、ささやかな宴会が開かれた。
「で、これから2人はどうなるんですか。 」
木崎は詳しいことを知らない。
ただ、幸せそうな2人を見て、聞かずにはいられなかった。
「次のプロジェクトが始まるから、私と村山君はここに残る。新谷君とエクレアは外で暮らすことになる。 」
「なんだ。そうだったんですね。良かったじゃないか。新谷君。 」
笑みがこぼれて、皆エクレアを見た。
「自分の宿命は自覚しています。でも、ロボットの人生は、長さではなく密度だと思います。この先何があっても皆さんのことを、私はロボットだから、絶対に忘れません。 」
「エクレアと、上手くいってるみたいですね。 」
「ううむ。思った以上に相性が良いようだな。 」
大木は唸った。
世界の命運を新谷とエクレアに託したものの、一抹の不安を感じ始めていた。
2人が楽しそうにすると、反比例して不安がのしかかる。
スパコンのキーボードを叩きながら、村山も渋い顔をする。
乾いたキータッチと、ファンの音だけが甲高く響く。
2人しかいない研究所は、いつもよりさらに広く、荒涼としたサイバー空間と化した。
「ぶっちゃけ、結末はどうなるんですか。 」
深いため息をつき、唐突に村山が聞いた。
しばらく沈黙した。
大木は、しきりに唸っている。
地下空間に広がる冷めた空気が、肺を重く押しつぶすように淀む。
呼吸が浅く、速くなっていく。
「うむ。そうだな。なあ。村山君。人生の価値は、密度だとは思わんかね。 」
苦しそうに言葉を絞り出す。
「まったくその通りですよ。人生は長さではありません。大事を成し遂げ、走り切った人生は素晴らしいものです。私は自分の力を試そうと、この仕事を選んだのですから。 」
村山は手を止め、大木を横目で見た。
「私にも、行く末は分からんのだよ。ただ……。 」
「ただ? 」
「罪の意識はある。 」
「兵器を開発しているのですからね。我々は、手を血で汚すかも知れません。 」
「しかも、ギガトン級の罪だ。 」
暗い眼をした大木が、作業台を拳で叩いた。
「新谷君に、度々問い質されて、お辛い気分だったでしょうね。 」
「違うのだ。最も畏れているのは、新谷君とエクレアの心を深く抉ることだ。核戦争は、政治的問題だ。我々の責任は半分だよ。 」
プロジェクトを始めて3年。
ロボット開発にかける情熱だけで、走り続けてきた。
決して簡単ではない問題を、3人力を合わせて次々に乗り越え、完成に漕ぎつけた。
だが、この先は様々な思いが交錯し、エクレアを翻弄していくだろう。
「ロボット兵器に、複雑な人間の感情を持たせるなど、愚の骨頂なのかも知れん。 」
「矛盾してますよね。消滅する運命にあるなら、感情などない方が良い。 」
「自爆テロで命を捧げる人間には、信念がある。だが、ロボットには……。 」
「2人がKIZAに入りました。帰って来ますよ。笑って迎えましょう。 」
「エクレアを狙う、テロ組織、武器商人なども出てくるだろう。いや。憶測で考えても、気を病むだけだ。村山君の言う通り。2人を温かく迎えるとしよう。 」
入口に乾いた足音が響いた。
生体認証を通ると戸が開き、新谷が姿を見せた。
「ただ今帰りました。 」
「ははっ。凄い荷物だな。今夜はぬいぐるみに囲まれて寝るんだな。 」
エクレアが、沢山の包みを作業台に置くと、3人に向けて深々と礼をした。
「私を作っていただいて、ありがとうございます。今日一日は、私にとって忘れられない日になりました。 」
大木は涙を噛み殺した。
「なんだい。改まって。これからも頼むよ。君たちは世界を左右するプロジェクトの中心にいるのだからね。 」
「よっ。しゅうっぴ。色男。夕飯にしよう。土産話も聞きたいしな。 」
いつものように、作業台へ木崎が夕食を運んできてくれた。
「さあ、今日はお祝いだ。しゅうっぴとエクニャの前途に乾杯しよう。 」
5人で食卓を囲み、ささやかな宴会が開かれた。
「で、これから2人はどうなるんですか。 」
木崎は詳しいことを知らない。
ただ、幸せそうな2人を見て、聞かずにはいられなかった。
「次のプロジェクトが始まるから、私と村山君はここに残る。新谷君とエクレアは外で暮らすことになる。 」
「なんだ。そうだったんですね。良かったじゃないか。新谷君。 」
笑みがこぼれて、皆エクレアを見た。
「自分の宿命は自覚しています。でも、ロボットの人生は、長さではなく密度だと思います。この先何があっても皆さんのことを、私はロボットだから、絶対に忘れません。 」