教室で、東堂君を見つけた。
 東堂君にまだ、お礼言っていなかった。
 ちゃんと言わないと。
「あ、東堂君!」
「ん?昨日、大丈夫だった?」
「うん。その……昨日はありがとう」
 私は東堂君に頭を下げた。
「いえいえ。……小栗さんが無事で良かったじゃん」
 会長さんが言っていたこと気になるな。
「あのさ、さっきまで生徒会室にいたんだけど。東堂君が会長さんに話したって……それって本当?」
「生徒会室って……その話、誰から聞いた?」
「会長さんだよ」
「由愛のヤツ、余計なこと言うなよ……」
「えっ?由愛って……会長さんのこと呼び捨てにしちゃダメじゃない?」
「由愛と俺は幼馴染みなんだよ。家同士が仲良いっていうか、だから由愛とも古馴染みで呼び捨ても許可もらってるし」
「そうなんだ……だけど、本当にありがとう。助かった」
 これだけは、本当に感謝している。
「別に平気だっての。じゃあ、図書室行こうよ」
 少しはかっこよかったし。付き合ってやるか。
 私と東堂君は図書室へ来た。
「久しぶりに『枕草子』借りようかな」
 私がそう言うと。
「『枕草子』?なんで?」
「あの時、『枕草子』のさ、『春はあけぼの』って東堂君が言ってくれたじゃない。なんか、安心したっていうか……だから借りようかなーって」
 そう。あの時、東堂君が私の気持ちを紛らわしてくれた。
「ふーん……安心か」
 そうだ。東堂君に聞きたかったことが。
「ねぇ、東堂君はなんであの時、『枕草子』が思い浮かんだの?すぐに出てくるなんて、古典が好きとかじゃないと」
 私が聞くと。
「思い浮かんだ理由は、ふと、目に入った景色が森の方向だったからさ。それに、奇跡的に蛍までいたし。『蛍と夏』といったら、俺は『枕草子』を思い浮かべるってわけ」
「じゃあ、なんで古典なの?」
「ん?古典?前に小栗さんとここであった時言ったじゃん。俺、古典好きだって。それに、小栗さんからしたら、他のことで例えられるより、好きなことで例えてくれた方がいいのかなぁって思ったから」
「そっか、ありがとう」
 もうそろそろ寮に戻らないと。
「じゃあ、私は寮に戻るね」
 私は東堂君に向かって、手を振ろうとしたその時。
「待って……」
 軽く触れるだけだったが、私の唇と東堂君の唇が重なった。
「じゃあ、バイバイ」
 東堂君の耳は若干赤かった。
 私を置いて、東堂君は図書室を出て行ってしまった。
「えー⁉」
 私は急いで、寮に戻った。