学園の門のところで誰かに腕を引っ張られたが暗くて誰だか分からなかった。
「──……⁉」
 私はパニックになり、どうすればいいか分からなかった。
 東堂君なのか。
 けれど、いたずらっ子な東堂君にしては度が過ぎている。
「うっ……」
 助けて、と声を出したいのに。
 声が出ない。
 早く離してほしい。
 グイッとさらに引っ張られ、人目のない場所にいた。
「──……ねぇ、おっさん、その子離したら?離さなとどうなるかわかってる?」
 今度は東堂君に腕を引っ張られた。
「──⁉と、東堂君⁉」
 びっくりした。
 だけど私を引っ張っていたのは誰なのか。
 そう思っていたら、パトカーの音が聞こえた。
「え?」
 警察の人が来て、私のことを誘拐しようとしていた人は警察官に連れていかれた。
「もう大丈夫」
 そうやって東堂君が優しく声をかけてくれた。
 私の脚は震えて、私は地面に座り込んだ。
「ほら、寮に戻ろう」
 東堂君はそういって私を抱き上げた。
「え?ちょっと、東堂君⁉」
「……春はあけぼの。じゃあ、夏は?」
 何で急に‘’枕草子‘’?
「‘’夏は夜‘’よ……なんで今言うの?」
 意味が分からない。
「今の季節は夏でしょ?この学園の景色見てみてよ。ほら」
 東堂君はそう言い、森になっている方を見た。
「……?あ!蛍!」
 森の方を見ると蛍が飛び交っていて、とても美しかった。
 気付けば、脚の震えは止まっていた。
 東堂君はそのまま私を抱きかかえたまま部屋に向かった。
 東堂君は私の部屋の扉をノックした。
「はーい?」
 すずの声が聞こえた。
「里奈⁉それに、東堂君……」
 東堂君は私を下ろしてすずに事情を説明していた。
 そのまま、東堂君は自分の寮に戻っていった。