私の名前は小栗里奈。
高校一年生になった。
私が通う高校、『零れ桜学園』は中高一貫。
だから、あまり変わったことがない。
この学園は寮制。
学園の敷地が長方形と考えたら、中央に校舎があって、左側に女子寮があって、右側に男子寮がある。
それに、この学園の近くにはショッピングモールがあったりするので、休みの日は生徒達がもの凄く集まる。
他の学校と違うことがあると言えば、この学園はあやかしと人間が一緒に勉強したりすること。
あやかしというのは私たち人間とはかけ離れた異能があったり、顔立ちがしっかりしている。
世の中でもあやかしと結ばれたい人が大勢いるのだとか。
その中でも特にずば抜けて人気があるのは。
「ねぇねぇ。王子様だ!」
学園で、プリンスなんて呼ばれている、東堂蓮。
凄い人気で、通るだけで花道ができるほど。
彼はあやかしの化け狐。
髪の色は地毛とは思えないほど、きれいな金色。
それに、誰もが憧れる美貌の持ち主。
さっきも紹介したけどあやかしだからイケメン。
私は興味がないのだけれど。
前置きはさておき、今日は高校の入学式。
「えーっと、私は何組かな。あった、四組か」
教室に入るとやけに騒がしかった。
なにがあるのか。
「まさか、あの東堂君と同じクラスなんて!」
クラスメイトの女子が頬を赤くして話していた。
私は何とも言えない感情になる。
「おはよう。みんな」
東堂君が教室に入ってきた。
「きゃぁぁぁぁ!」
教室が叫び声で埋め尽くされた。
なんでこんなに叫ぶの。
朝から疲れる。
一応はカッコイイかなって思ってるけど、クラスの子達みたいな感じではない。
「えー……これで授業終わりにします」
先生が言い、号令がかかる。休み時間。
今は二十分休み。
私は図書室へ行った。
「えっと、これも読んだし」
中学からこの学園にいるから、好きな本は大体読み終わっている。
「また、借りようかなー」
私は古典や日本史が好き。
「これ読む?」
上から声が聞こえる。
「え?」
上から覆いかぶさるようにしていたのは、東堂蓮だった。
「その本……」
蓮が持っていた本は古典の本だ。
中学から古典ばっかり読んでいたのに、東堂君が持ってる本は読んだことがなかった。
「こんな本あったっけ?」
「ん?ああ、昨日新しく入ってきた本だよ」
「そうなんだ。詳しいね」
私がそういうと、得意げに鼻を鳴らした。
「俺、図書委員だし、古典好きだし」
「あの、それ借りてもいいの?」
読んだことない本だ。借りる以外ない。
「いいよ」
チャイムが鳴る。
急いで教室に戻り、授業を受ける。
六時間目が終わり、今日は部活がないので寮に戻る。
零れ桜学園の寮は普通は二人で一つの部屋だけれど、私は人数の関係で一人だ。
でも、一人の方が楽しい。
一人より、大人数の方が楽しいかもしれない。でも、私は一人がいい。
中学の時はみんなで遊んでいたけれど、高校に入って将来について考えている友達も多くて中々遊べない。
「あれ?さっきの本……」
教室に置いて来てしまった。
けれど、読みたいので校舎まで行くことにした。
「はぁ、結構距離あるー!」
校舎まで少し距離がある。
だが、家と比較したら、だマシなのかも。
「失礼しますー……」
良かった。誰もいない。
「あった!」
戻ろうとしたら。
「あれ?さっきのー……なにか忘れ物?」
「あ、東堂……君。借りた本、忘れてしまったので。じゃあ」
早く戻ろう。
「うん。また明日」
予想外のことが起きたけど、無事に本を取りに行けて良かった。
夕食の時間は食堂に行く。
食堂は男女同じところにある。
だから、また叫び声で埋め尽くされる。
みんな友達と喋りながら食べている。
「私は一人か……」
なんて自分で言って少し虚しくなる。
「ね、ねぇ、隣いい?」
一人でいる子なんて初めて見る。
「いいよ」
「あ、ありがとう!」
失礼だけど、こんな子いたっけ。
中学でも見たことない顔。それに人間だ。
「あ、私、笠井すずっていうの。今年から転校して来て四組なの。よろしくね!」
まさかの同じクラス。
「私は小栗里奈だよ。同じ四組、よろしく」
部屋どこなんだろう。
「あのさ、すずちゃんって部屋どこなの?」
「あー……それが、後で寮長さんから聞くの。だから、わかったら教えるね」
「そっか。じゃあ、後で教えてね」
私たち、高等部の寮長は藤原彩羽先輩。
とても優しくて、人気の先輩だ。
すずちゃんと夕食を食べた後、彩羽先輩が私の部屋に来た。
「里奈ちゃん、初めて相部屋の子ができるわね」
先輩が言った後、すずちゃんが出てきた。
「里奈ちゃん。これからよろしくね!」
「あれ?知り合いだったの?」
先輩が不思議そうに言った。
「そうなんです。たまたま食堂で会ったので」
「そうだったのね。まあ、二人とも仲良くね。里奈ちゃん、寮のこと教えてあげれるかしら?じゃあ、お邪魔しましたー!」
そのまま、先輩は出て行ってしまった。
「すずちゃん、荷物の整理出来たら、少し、散歩行かない?」
「うん!」
すずちゃんと寮の敷地内にある公園に来ていた。
「里奈ちゃん、──……」
「あ、私のこと里奈でいいから、すずって呼んでいい?」
「うん!もちろん!」
嬉しいな。久しぶりに友達と居られる。
「あ、ごめん。話さえぎっちゃったね」
「ううん!大丈夫。里奈に質問したいんだけど……」
「なに?」
「えっとね。プリンスって呼ばれてる人いるじゃん?」
ここでもプリンスか。
「うん」
「里奈はプリンスのことどう思ってる?そんな、東堂君のことを悪く思ってるとかじゃなくてね!みんなは東堂君に夢中になってるけど、私、そんな興味なくって。私、変なのかなって……」
すずも私と同じなのか。
「変じゃないと思うよ?だって私も同じだからね」
「え?」
「私も同じであんまり興味ないんだ。だけど、悪い人ってことでもないから、普通に接してるよ。でも、クラスの子みたいには叫んだりしないよ」
「え?ウソでしょ?」
すずは、信じていない様子。
「本当だよ?」
「そっか。ちょっと安心した。私だけじゃなくて同じ気持ちの人がいるって思うと、嬉しいの」
すずと私は同じ気持ちだったんだ。
「すず、これからよろしくね!」
笑顔で言った。
「うん!」
「じゃあ、寮に戻ろっ!」
私とすずは寮に戻り、就寝した。
翌日、朝食を食べに食堂へ行った。
昨日とは違い、私はすずと来ていた。
「いただきまーす!」
喋りながら朝食を食べ、授業に行く。
二十分休み。
「里奈!私、委員会あるから、また後で!」
すずは行ってしまい、私はいつも通り図書室へ行った。
今日は誰もいない。珍しい。
そう思い、本を探していると。
「……⁉」
グイッと腕を引っ張られ、何事かと思えば、後数センチで顔が触れるところに東堂蓮がいた。
「ちょっ……と!」
勢いよく蓮を突き放した。
私の顔は真っ赤になった。
「ぷっ……!ははっ」
「なっ……!」
「何ですか!急に⁉」
「いや、イタズラだよっ」
東堂君はニコニコと言った。
「イタズラだとしても……!急にこれはなくないですか⁉」
こんなヤツ知らない。
みんなから大人気の王子様は意地悪な王子様だった。
私は不機嫌になってしまった。
クラスの子には「大丈夫?」などと言われるがクラスの子に図書室でのことを話すと、たくさんの人の恨みを買ってしまいそうで言えない。
「すず、まだかな」
六時間目まで終わり、寮へ戻りゆっくり休んでいると。
「ただいまー」
すずが戻って来た。
「おかえりー」
勉強をして、夕食の時間になった。
「里奈、食堂行こ!」
「そうだね!」
食堂へ行くと。
「あ、王子様だぁ~!」
クラスの子、いや、学園の生徒が集まっていた。
「あはは、集まってんね」
「ね。でも、興味ないんだわ」
東堂君が一瞬こっちを向いてニコっと笑ったが私は強く睨み返した。
「……里奈?どうかしたの?怖い顔して」
不思議そうにすずは聞いた。
「ん?いや、なんでもないよー?」
本当は何でもなくはない。
けれど、それを表に出すのは違う気がする。
夕食を食べ、寮に戻ると。
「ねぇねぇ、里奈。明日休みだからさ、ショッピングモール行かない?」
「もちろん!私、久しぶりに行きたかったんだよねー!」
「そっか!じゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
楽しみだな。
朝起きて、すずと私は笑顔で。
「じゃあ、行こ。すず!」
「うん!」
ショッピングモールに着くと、たくさんの生徒がいた。
「まあ、近くにこんなに大きいショッピングモールがあったら、みんな行くよね」
当然のことだが、改めて見ると実感する。
「すずー!なにする?」
普通って何すればいいんだか。
「うーん……あ、私、本買ってもいい?」
「いいよ!」
私達は本屋に行った。
「里奈とだったら、何時間でもいられそう!」
そんなふうに思ってくれてたのか。
「私も!」
「あ、すず!次はあそこ行こ!」
私は幼い頃に戻ったようにはしゃいだ。
気づいたころにはもう夕方になっていた。
「あ、里奈ごめんね。私、課題が終わってないから、もう帰るけど里奈は?」
迷っているとあることを思い出した。
それは、新しいボールペンを買う事だ。
「ごめん、先に寮に戻ってて。私、文房具買いたいのあるから」
「うん。わかった!じゃあ、先に戻るね」
すずと別れたところで私は文房具屋に行った。
「えっと、これとこれでいいかな」
私は会計を済ませ、寮へ戻った。
学園の門のところで誰かに腕を引っ張られたが暗くて誰だか分からなかった。
「──……⁉」
私はパニックになり、どうすればいいか分からなかった。
東堂君なのか。
けれど、いたずらっ子な東堂君にしては度が過ぎている。
「うっ……」
助けて、と声を出したいのに。
声が出ない。
早く離してほしい。
グイッとさらに引っ張られ、人目のない場所にいた。
「──……ねぇ、おっさん、その子離したら?離さなとどうなるかわかってる?」
今度は東堂君に腕を引っ張られた。
「──⁉と、東堂君⁉」
びっくりした。
だけど私を引っ張っていたのは誰なのか。
そう思っていたら、パトカーの音が聞こえた。
「え?」
警察の人が来て、私のことを誘拐しようとしていた人は警察官に連れていかれた。
「もう大丈夫」
そうやって東堂君が優しく声をかけてくれた。
私の脚は震えて、私は地面に座り込んだ。
「ほら、寮に戻ろう」
東堂君はそういって私を抱き上げた。
「え?ちょっと、東堂君⁉」
「……春はあけぼの。じゃあ、夏は?」
何で急に‘’枕草子‘’?
「‘’夏は夜‘’よ……なんで今言うの?」
意味が分からない。
「今の季節は夏でしょ?この学園の景色見てみてよ。ほら」
東堂君はそう言い、森になっている方を見た。
「……?あ!蛍!」
森の方を見ると蛍が飛び交っていて、とても美しかった。
気付けば、脚の震えは止まっていた。
東堂君はそのまま私を抱きかかえたまま部屋に向かった。
東堂君は私の部屋の扉をノックした。
「はーい?」
すずの声が聞こえた。
「里奈⁉それに、東堂君……」
東堂君は私を下ろしてすずに事情を説明していた。
そのまま、東堂君は自分の寮に戻っていった。
翌日、彩羽先輩が私の部屋に来た。
「里奈ちゃん、少しいいかしら?」
「はい。すず、私行ってくるね」
彩羽先輩はいつもの笑顔だが、そこには不安そうな気持ちが読み取れた。
「失礼します」
彩羽先輩と私が入ったのは、まさかの生徒会室。
「直接呼び出してごめんな」
そういったのは生徒会長の鬼塚由愛先輩だ。
生徒会長をやっていて、鬼の一族。
あやかしとしても強い。
凛々しくて、カッコイイって有名な先輩。
「いいえ。大丈夫です。……あの、私、何かしてしまいましたか?」
怯えながら聞いた。
「いや、何かしたってわけでは……だが、今日は昨日のことで話をしたいんだ。そこに座ってくれ」
失礼のないようにしないと。
「はい。先輩も昨日のこと、知ってたんですか?」
「私は東堂蓮に聞いた。それと、君に謝らなければならない。すまなかった」
「東堂君がですか?それに、先輩が謝る?どうしてですか?」
私は聞きたいことだらけだった。
「実は今日、学園の敷地内に結界を張る予定だったんだが、昨日張って置けば良かったな。すまないな。怖い思いをさせてしまって」
確かに怖かったけど。
「いえ。全然平気です!……先輩が張ってくださった結界でたくさんの生徒が助かるのならそれで大丈夫です」
「ありがとう。君も今後は気を付けてくれると助かる」
「はい。わかりました」
「……そういえば、里奈ちゃんのこと助けてくれたのって」
彩羽先輩が聞いた。
「同じクラスの東堂君が助けてくれました」
「あやかしがいて良かったな」
会長さんが言った後。
「化け狐ということ利用するとは……なんとも賢いですね」
そういったのは生徒会・副会長の鬼村明華先輩。
明華先輩は会長さんの右腕とも言われるほどの実力。
明華先輩は、会長さんと同じ鬼。
会長さんと明華先輩は親戚。
運動能力抜群で大人気の先輩。
「そうだな。君が『誘拐されかけるところを見かけて、警察を呼び、気づかれないよう狐になっていた』か……」
そんなことをしていたとは。
「あの、本当にご迷惑をおかけしてごめんなさい!」
「里奈ちゃんが無事で良かったわね」
私は授業があるので、生徒会室を出て行った。