化け狐さん、襲わないでください!

「あ、授業始まっちゃう!」
 私はすぐに教室に戻った。
「ふぅ~」
「里奈。どうしたの?」
 すずが声を掛けてくれた。
「あ、ちょっとトイレ行ってたー!」
 次は……移動教室じゃん!準備しなくちゃ!
「あれ?教科書はどこ?」
 教科書がない。
「里奈?」
「ちょっと寮に戻る!」
「え?ちょ、ちょっと⁉もう授業始まっちゃうよ?」
 早くしないと。
 寮に戻って来た。
「あら?里奈ちゃん?どうしたの?」
 彩羽先輩。それに、明華先輩、会長さんも。
「あ、忘れ物があって……!」
 私は部屋に戻り、教科書を探すと
「えっと、あった!急ごう!」
 キーンコーンカーンコーン。
 どうしよう。始まってしまった。
 急いで寮を出ると。
「……里奈?」
「蓮⁉なんでここにいるの?」
 まさか、蓮もなにか忘れ物したのかな?
「俺は、友達と話してたら遅れた」
「なにそれ。ただのサボりじゃない。ふふっ」
 早く行かないと。
「ほ、ほら!早くしないと!」
「うん。行こっか」
 私と蓮は遅刻して先生に怒られてしまった。
「えー……学級委員、前に来い」
 先生に言われ、学級委員の子が出てきた。
「もう少しで修学旅行なんで、色々と計画を立てます」
 そう言われた瞬間
「うぉぉぉぉ!!」
 めちゃくちゃ盛り上がっている。
 休み時間になった。この時間では、決めきれなかったので、修学旅行の計画を立てる時間が増えた。
 ラッキーな事だ。
「修学旅行楽しみだねー!」
「うん!」
 クラスの子。いや、学年の子が口をそろえて言った。
 当たり前か。一年の中でとっても楽しみなことか。
 私たちは、京都に行く。
 修学旅行のことで話を持ち切りにしていた。
 私はすずとクラスの子で話していた。
「……話変わるけどいい?」
「いいよー!なになに?」
 なんの話だろう?
「なんか、五組に転校生が来たらしくて……めっちゃイケメンなの!」
 修学旅行の話から、急に変わったが。
「マジで⁉見に行こ!」
 皆、大騒ぎ。
 でも、それも青春の一つ。
「あ、あの子!」
 クラスの子が指をさしていた子は、白髪で青い目をしていた。
「あやかし……?」
「うん、猫のあやかしだったと思う。で、アメリカにいたらしい。だから、あんまり日本語喋れないって」
「いつも思うけど、この学園転校生多い」
「「ね」」
 皆、同時に言った。それほど共感できるのかも。
「こういう時こそ里奈の出番じゃん!」
 すずが言った。
「え?なんで私?」
「だって、里奈、アメリカにいたんでしょ?」
 私は、生まれはアメリカで小学校三年生までアメリカにいた。だから、英語の会話も多少はわかる。
「まあ、そうなんだけどさー……他にも英語得意な子はいるでしょ?」
 私が聞くと一斉に皆、首を横に振った。
「英語はマジで無理……」
「あー……マジか」
「じゃあ、話しかけてみてよ!」
「なに言えばいいの?」
「なんか、自己紹介的なの聞いてきてー!ウチらが言ってたって言ってね」
「いいよ。聞いてくる。私の練習も含めて……」
 私は、転校生のところへ行った。
 緊張する。
「こんにちは、突然ごめんね。お名前とか聞いてもいい?あの子達が聞いてって言ってて……」
 私はすずとクラスの子たちに視線を送った。
「……僕の名前はジャズだ。あの子達は君の友達?よろしくね」
 ジャズ……後で伝えよう。
「よろしくね。じゃあ、またね」
 そして、私はすずたちの下に帰って来た。
「はぁ~。久しぶりに英会話した」
「私たち、ホントになに言ってるかわからなかった……あ、名前聞けた?」
「うん。あの人の名前はジャズだって……」
 私は英会話のレッスンができた。なんだかんだ一石二鳥。

 私は、図書室に行った。
「あれ?蓮はいないのかな?」
 蓮の姿はなかった。その代わりに。
「……?」
 ジャズがいた。本が好きなのかな。
 ジャズは椅子に座り、何冊か本を開いて勉強をしていた。
「ジャズ。何してるの?」
 私とジャズの英会話が始まった。
「やぁ、里奈。日本語を覚えようと思って……」
「えらいね!」
「ありがとう」
「日本語、どのくらい話せるの?」
「簡単な日本語しか話せないけど……少し練習に付き合ってくれない?」
「わかった。いいよ」
 そして、私とジャズは日本語の練習を始めた。
 思っていたよりもジャズは日本語が上手だった。
「日本語上手だね!そういえば、修学旅行、明後日じゃない?」
 今更だが、気づいた。
 修学旅行が明後日ということ。
「そうだね。京都って何が有名なんだ?」
「京都はお寺だよ!」
 言っても私もそこまで詳しくはないのだが。
 日本語の練習と修学旅行の話で盛り上がった。
「遅くまでありがとう。またね」
 そう言ってジャズは図書室から出て行った。
 今日は修学旅行当日。皆盛り上がっている。
 なんだけど私は少し問題発生。
 数時間前。
「すず、観光の時の班って決まった?」
「決まったー!里奈は?」
「決まってなくて……他の子も皆決まっててどうしよう!」
 解決方法が思い浮かばない。
 それは今でも決まらないので私は一人で観光だ。
 寂しいけど一人でも大丈夫なはず。
 京都に着いた。
「えー京都に着きました。なので、決めた班で京都内なら、どこ行ってもいいですよ。ですが、四時になったら、ここに戻ってきてください。では、いってらっしゃい!」
 先生の言葉で一斉に皆が動き出した。
 まずは清水寺。
 楽しくて時間はすぐに過ぎていき、腕時計は三時半になった。
 んー、なにしようかな。
「脚が……痛い。捻っちゃったかな?」
 右脚首が痛い。
「まだ、一日目なのに……」
 この修学旅行は三泊四日。
 あと、三日もある。
 だけど、右脚首が治ってくれなきゃ何もできない。
 できない訳ではないが、これ以上悪化した方がもっと何もできなくなる。
 私は人目のない山で休んでいた。
「里奈?どうかしたのか?」
「蓮……」
 蓮は一人だった。
「あれ?蓮の班の人は?」
「ちょっと抜けてきた。それよりも……里奈の班の奴らは?」
「……実は、私、班がない。」
 そう言った瞬間、蓮はポカンとした顔になった。
「は?迷子か?なら、班員を誰か教えてくれれば」
 私は蓮の話を遮り。
「あの、そういう事じゃないの。元々いないの。寸前になっても私、班の人決まらなくて、皆だれかと組んでるから一人なの。だけど大丈夫だよ!」
「なら、俺と周ろうよ。明日から」
 嬉しいかった。
 けれど、問題点もある。
「それじゃあ、蓮の班の人はどうするの?」
「んー……どうにかして逃げ切る」
 無理がある気がする。
「うん!ありがとね!」
「ほら、戻らないと怒られる」
 そう言って蓮は私の腕を引っ張り、座っていた私を立たせようとしてくれた。
「痛ッ……⁉」
 右脚に激痛が走った。
「どうした!どこが痛いんだ?」
「……ッ!右脚を……さっき捻っちゃったかも」
 そう言い、私はまた座り込んだ。
「どの辺が痛い?」
 私は右脚首を指差した。
「……おいで」
 そう言って蓮は私をひょいとおんぶした。
「え……いいよ?重いし」
「大丈夫。脚が悪化する方が嫌でしょ?」
 私はコクンと頷いた。
 私は保健の先生のところに連れていかれ、蓮は先生に事情を説明した。
「……小栗さん、捻挫してしまってる。全治二週間ほど……残念だけど、明日の登山は部屋で休めるかしら?」
「はい……ありがとうございました。」
 これじゃあ、登山どころか修学旅行じゃなくなってしまう。
 私は皆より先に部屋に行った。
 生活班と活動班というものがあって、活動班は私一人だけど、生活班はすずや仲の良い子もいるからラッキーだ。
「だけど、明日とか何してればいいの?」
 それが問題点。
 捻挫は治るからいいけど、修学旅行はこれで終わっちゃう。
「あ、里奈ー!ただいまー!」
 すずや他の子も帰って来た。
「あ、おかえりー」
「里奈どうして先に来てたの?だって、どの班も今帰って来たんだよ?」
「あのね、捻挫しちゃった!あはは……」
 私は軽く笑ったが皆は目を丸くしていた。
「うぇ――!大丈夫なの⁉」
 皆焦っていた。
「うん。大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
「里奈が大丈夫ならいいんだけど。安静にね?」
 そういえば。
「ねぇねぇ、三日目ってキャンプファイヤーあるでしょ?」
「うん!一番の目玉はキャンプファイヤーでしょ!……里奈、見られるといいね!」
「うん」
 そして、二日目になった。
「じゃあ、里奈行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
 皆行ってしまった。
 なにしよう……そうだ読書。
 私は持ってきていた本を取り出し読み始めた。
 少しすると。
「里奈?」
 ジャズの声がした。
「ジャズ?登山は?」
「里奈こそどうしたの?僕は荷物を取りに来た」
 ジャズは前よりも日本語が話せるようになった。
「脚を痛めていしまって……」
「え?大丈夫?……骨折とかしてないよね?」
 骨折はしてないけど。
「捻挫しちゃった。それよりも、登山行かなきゃじゃない?」
「……うん。お大事に……待って」
 話が終わるかと思えば、私が座っていたベットにジャズが近づき、私を押し倒した。
「え……?」
 ジャズの顔と私の顔が数センチで触れるところまできた。
 軽く私の唇とジャズの唇が重なった。
「里奈。それに……誰だ?」
 この声は蓮だった。蓮が私たちを見ていた。
 最悪のタイミングだ。
「蓮、勘違いしないでね……?」
 蓮の顔は険しくなっていた。
「里奈、この人は誰?」
 ど、どうしよう。
「この人は彼氏だよ……」
 震え声で言った。
「僕は行くね」
「あ……待って!」
 行ってしまった。最高の修学旅行にしたかったのに、これでは、真逆。
「里奈……あいつとは、どういう関係だ?」
「……ただの友達」
 私は蓮の質問にそう答えた。
「なら、どうしてあんな事を?」
「どうしてって……私もわからないよ」
「そうか……」
 蓮まで行ってしまった。
 蓮の瞳は光がなかった。
 どうして。
 なんで話も聞いてくれないのだろう。
 こうして、二日目も終わってしまった。
 蓮やジャズにはどんな顔して会えばいいの。
side/蓮
 里奈の様子が気になり、里奈の部屋を訪れた。
「えーっと、ここか」
 俺が部屋を除くと里奈が他の男と一緒にいた。
 なにをやっているんだ。
「里奈?それに……誰だ?」
 見たことがない顔。
「蓮、勘違いしないでね……?」
 里奈の顔が見る見る真っ青になっていた。
 里奈と誰かは英会話をしていた。
 男の方はあやかしっぽいが、日本人ではなさそうだ。
 もしかしたらハーフなのかも。
 その男は出て行ってしまった。
 里奈はあいつのことを『友達』と言った。
 友達だったら、そんなことするのか。
 誰かを困らせることを。
 理由も聞いてもわからないと答えられた。
 俺には言えないのか。
 俺はどんな顔で里奈に会えばいいのかもうわからなくなってきた。
 三日目になり、キャンプファイヤーが今日の夜にある。
 私はキャンプファイヤーの実行委員なので、準備に広場に行った。
 こんな時に限って、ジャズと蓮が同じ実行委員なのだ。
「……」
「……」
気まずい。
「えーっと、小栗は、これを運んでくれ」
「はい」
 私は木材を持たされた。
 脚が痛いのにこんなに持たされるんなんて。
 皆、黙々と運んでいる。
 早く持って行かないと!
 私は木材を運び、仕事が終わったので休憩していた。
 「脚……大丈夫かな」
 ジンジンと痛み始めた。
「……!」
 痛みで顔を歪めた。
「大丈夫か?」
 いつの間にか隣にいたのは蓮だった。
「あ……だ、大丈夫。」
 私は急いで立ち上がり山の方へと駆け出した。
「里奈……!」
 脚が痛い。だけど、蓮と今は会いたくない。
 私は山の中に入っていた。
「ここ、どこ?」
 どうしよう、迷ってしまった。
 出口がわからない。見えるのは、同じような木だけ。
「誰か、誰か助けて……」
 弱々しい、情けない声が出た。
「――!里奈!!」
 この声は蓮だ。
 聞き覚えのある声に安堵を覚えた。
「……蓮。どうしてここに――……」
 私が話終える前に強く抱きしめられた。
「ご、ごめんなさい……」
「里奈、ケガはない?大丈夫?」
「う、うん。ありがとう……」
 私はお礼は言ったが、蓮を直視できずにいた。
「ほら、もうすぐ夜だよ、キャンプファイヤー始まる」
「――私のこと、嫌いじゃないの?」
「え?どうして?嫌いになるはずない」
「どうしてそんなこと言うの?だって、だって……昨日、見たでしょ?」
 私だって、あれは予想外だったけれど、何も知らない人が見たら勘違いしてしまうだろう。
「嫌いになんてならない。もちろんあれは、驚いたけど……里奈のことは、ずっと大好きだ」
 蓮の言葉が私の心の傷を癒してくれた。
 私と蓮は、ゆっくりと山を出ていき、広場へ行った。
「キャンプファイヤーに火をつけます!」
 実行委員の子が言った瞬間、皆が盛り上がった。
「蓮と見れるなんて最高だよ!」
「俺も」
 キャンプファイヤーが終わり、部屋に戻ろうと歩いていると
 少し気掛かりなのは、ジャズ。
 ジャズとはあれ以来話していない。
 雨が降って来た。急いで戻らないと
「あ……」
「……」
 ジャズと会ってしまった。
「今日は雨だね。僕の心みたい」
「え?」
 確かに今日は雨。
 だけど、なんでジャズの心まで。
 もしかしたらこの前かな。
 ジャズの本音はなんだろう。
 わからない。
「率直に言えば、僕は里奈のことが好きだ。だけど、あの時わかった里奈が本当に好きなのは、あの彼氏だね。残念」
 ジャズは、悲しそうな顔をする。
「ごめん、本当にごめんなさい。私は、ジャズと友達でいたい」
「うん。ありがとう。悔しかったけど、後悔はしていないよ」
 そう言ってジャズは行ってしまった。
「ありがとう……ジャズ」
 私は自然と言葉が零れた。
 今日は四日目。
 午前中は、皆で遊び、午後は学園に戻る。
「えっと、集合写真を撮ります。集まってー!」
 先生から号令がかかり、皆集まった。
「並び順は何でもいいです」
「……蓮!あたしの隣!その隣は……小栗さんよ!」
 指示をするように言ったのは笑真ちゃん。
「う、うん。笑真ちゃん、私も入っていいの?」
「……何言ってるのよ。それに、笑真ちゃんって……まあ、いいわ」
 蓮が笑真ちゃんの隣。私は蓮の左隣。右隣が笑真ちゃん。
「五組も入るかー?」
 先生が聞いた瞬間。
「先生ナイス!それいいじゃん!」
 クラスの子や、五組の子がゾロゾロとやって来た。
 私の隣は。
「僕の友達!」
「ジャズ……!」
「ほら、撮るぞー!」
 カシャッ!
 カメラの音がした。
「めっちゃ楽しかったー!」
「ね!楽しかった!」

 後日。
 修学旅行で撮った写真が届いた。
 私は蓮と話していた。
「里奈。めっちゃ可愛い!襲いたくなる」
 そう言って蓮は頬に甘いキスを何度も落とした。
 キスの嵐だ。
「……もう!可愛いって言ってもらえるのは、ありがたいけど……化け狐さん、襲わないでください!」
 私たちの学園生活は、まだまだこれから。

『夏は夜。
 月のころはさらなり。
 やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。
  また、ただ一つ二つなど、
 ほのかにうち光りて行くもをかし。
  雨など降るもをかし。』