家に帰り一人になると、今日の葉月と記者の言葉が思い起こされてくる。

明らかに静のスキャンダルを狙っているような質問に、春花は身震いして自分自身を抱きしめた。

輝かしい静の活躍に自分のせいで泥を塗ることになるかもしれない。高志とトラブルになってしまった、そのことで静に迷惑をかけてしまったらどうしよう。

誰よりも静を応援し、誰よりも静を愛しているからこそ、春花は一人悩み落ち込んだ。

そっと左手首を撫でる。もう完治しているはずなのになぜだかシクシクと痛む。

静のことだけではない、こんな不安定な状態のままピアノを弾き続ける事にも違和感を覚えていた。

「店長、あの……」

春花は白い封筒を差し出す。

「辞めさせていただきたいと思って。今回はちゃんと私の意思です」

「山名さん……」

「ずっと考えていたんです。ケガをしてから前みたいに弾けなくて、どうしたらいいんだろうって」

春花は一呼吸置く。葉月は急かすことなく春花の言葉をじっと待った。