ぐるぐると巡る思考の中、高校生の時の言葉がよみがえる。

――俺は世界中の人を俺のピアノで魅了させるのが夢だ

(ああ、そうだった。静の夢は世界に羽ばたくピアニストなんだった)

そう思った瞬間、春花の心の中にあった何かが崩れ落ちた気がした。

静とは一緒にいたい。ずっとずっと好きだったのだから。ようやく手に入れた自分の居場所。これからも大切にしたいと思っている。自分が愛されている、守られていることをひしひしと感じる幸せな今の生活。もし静が海外にいったらどうなるのだろう。もっともっと有名になったらどうなるのだろう。

平穏が変わってしまう事を考えると怖くてたまらない。静がいない生活なんて考えられない。

でも……。
だからといって、自分のために夢を犠牲にするなんてことはしてほしくなかった。

一緒に音大にいけなかった、ピアニストの夢をあきらめた春花にとって、静の夢には全力で応援したいと心から思う。それが春花の夢でもあるからだ。

(私なんかのために夢をあきらめちゃダメだよ)

込み上げる涙を我慢して、春花はメイサの元を去った。