「っ!」

「ぐっ!」

脇腹に鋭い痛みが走り、春花は体制を崩しながら倒れまいと必死に手をつく。ぐきっという鈍い感覚に顔を歪めるが、脇腹の痛みの方が強く意識を保とうとするだけで精一杯だ。

「キャー!」

誰かの悲鳴と共に静が見た光景は、苦痛に顔を歪ませながら地面にうずくまる春花の姿だった。

「春花!」

抱き寄せようと手を添えると、ぬめりとした感触に戦慄が走る。静の手には春花の血がべっとりと付いており、一気に血の気が引いていった。

「春花しっかり!」

「……静が……怪我しなくてよかった。ピアニストは……怪我が命取りだもんね」

わずかに微笑む春花に静は唇を噛み締める。

「何言ってるんだ!今救急車を!」

静の呼び掛けに春花は小さく頷く。

ザワザワと恐怖に怯える通行人たち。
勇気ある者たちに取り押さえられながらも奇声をあげ続ける高志。
騒ぎに気付いて店を飛び出してきた葉月。
そして祈るように春花を抱きしめる静。

やがて救急車とパトカーの近付くサイレンの音と共に、春花の意識は混濁していった。