「よーし、満足した!」
「そうですね」
「あれ、お疲れ?」
「まあ」
 そりゃそうだよ。いつも全然外に出ない私が先輩に振り回されたから、すっかり疲れちゃった。
 結局、最後まで連れ回されて、もう時間も遅いし、お母さんに怒られちゃうかもだし、疲れたし、歩き過ぎて足痛いし、いろいろ大変、だけど。
 やっぱり楽しかった、のかな。
「ごめんごめん、ちょっとはしゃぎすぎた?」
「……あの」
「ん?」
「どうして、今日は私を誘ってくれたんですか?」
「どうして?」
「誘う理由、ないじゃないですか」
「そう?」
「少なくとも、私には思いつかないです」
 だって、こんなに良くしてもらえるほど、可愛い後輩でもないはずなのに。
「いやまあ、今日は元々入っていた予定が潰れてさ、せっかくだし誰かと遊びたくて」
「それで、暇そうな私に声をかけたと」
「うん、そう」
 やっぱり、そんな理由なんだ。分かっていたけど、わざわざ言わなきゃいいのに。
「チャンスだと思ったんだ。前から良子ちゃんを誘うチャンスを窺っていてね。いつも一緒に帰ってもさ、まっすぐ家に帰っちゃうじゃん。だから夏休みは、ちょうどいいかなって」
「えっと、つまり?」
「簡潔に言えば、良子ちゃんと遊びたかった、それだけみたいな」
「……」
 そんなの。
「うーん、理由になってないかな。私、こういう感覚的な行動が多いからさ。迷惑だったら、ごめん」
 迷惑? ううん。
「……また、誘ってください」
「ん?」
「楽しかったです、私も」
 迷惑なわけもなく。心の中さえも素直じゃなかったけど、私は本当に楽しんでいた。だってこの人が教えてくれた時間は、今まで人とかかわってきた中で、生きてきた中で、最も素敵な部類に入る、そんな時間で。
「気を使わなくてもいいよ?」
「違います、素直な私の言葉、正直な気持ちです」
「え、意外」」
「な、なんですかその反応は」
 本気でビックリしているみたいな。
「マジ?」
「マジです!」
「弱虫なんです、私」
 大切な友達に誘われても、つい断って。一緒に遊ぶ、たったそれだけにさえ踏み出すことができなくて。
「今日、友達に誘われていて、本当は一緒に遊びに行きたかったのに、勇気が出なくて。つい私は、一人がいいなんて言い訳をして」
「どうして、勇気が出なかったの?」
「人と、遊んだ経験なんてほとんどなくて」
 いつもひとりぼっちだったから。知らない
「なんて正直で素直な良子ちゃん。これはあれだ、レアだね」
「え、いや、その」
 私、何を言っているんだろう。恥ずかしい。滅茶苦茶恥ずかしい。
「ヤバいね、この瞬間は保存しなきゃ勿体ない」
「な、なんですか?」
「ごめん、もう一軒付き合って!」
「えっ、流石に時間が」
 門限とかはないけど、結構遅い時間だし、これ以上は流石にマズいような
「すぐ終わるから!」
「え、ええ」
 手を引かれる。またされるがお母さん。抵抗する気なんて少しも起きなくて、心の中は笑っていて、ずっと一緒に居たかった、この時間が、続いてほしかった。