拾った狐は未来の旦那様

嫁入り!?え!?そんなすぐに!?そもそも何故!?それより冷静であるかのように取り繕わねば!
「申し訳ありませんが、今日会ったばかりの人間……狐に嫁ぐことなど誰ができましょうか。」
「その通りだ。だが、これから知っていけば良かろう。」
「そも何故そのようなことを仰ったのでしょう。知らぬ女など、信用できますまい。」
「なら、お前は何故知らぬ狐に飯をくれた?貧しい暮らしをしていながら。」
「助けるのは当然のことでしょう。たとえ見知らぬ者でも、狐であろうとも。」
「それと同じだと思えば良かろう。」
……言いくるめられた。反論しても無駄だろうし、もっと決定打のある理由を見つけねば…。
「…妖かしと人間では住む世界が違いましょう。そんな申し出は到底頷くことなどできますまい。」
「ふむ。それもそうだ。だが、惚れてしまえば仕方ないことである。」
惚れた?何言ってるんだこの人は…。
頭の中で考えていると1つの答えに辿り着いた。
「魚と栗の味に惚れても貴方様ならいつでも食べられるはずです。」
銀狐は一時呆気に取られたあと、ブハッと吹き出した。
「魚と栗ね…。陽香という者は面白い事を言う。」
はて、そんな笑うことがあるだろうか。
「あっ!客人なのに居間にも通さないで申し訳ありません。」
深く一礼すると、銀狐は温かい眼差しで笑っている。
「気にすることはない。」
すると、後ろから湊がやってきた。
「おーい!山菜の粥ができたぞ!…ん?誰だその美男子は?」
本音が出た湊の声は木霊し、今まで喋っていた相手が美男子であると再認識し、少し頬が赤くなる。
「どうも。道で倒れているところを助けていただいたのです。」
「あんたもか、さっき狐も倒れてたらしいではないか。倒れる奴が多いのだな。」
陽香は内心ドキドキしながら、2人の話を聞いている。隣の銀狐は余裕そうな笑顔をしている。
「で、あんた何処から来たんだ?」
「すみません。記憶が曖昧で。頭を強く打った後のことしか憶えてないのです。」
「そうか…。そりゃ済まないことを聞いたな。おい、陽香。」
「はい!」
急に名前を呼ばれ肩が跳ね上がる。
「お前、こいつを泊めてやれ。」
「…え?」
人がいいのか何なのか。そんなことを言い出すとは思いもしなかった。
「しかし、」
「怪我人には安静にしてもらわんといかんだろ?」
「そうですが、」
「なぁに、何かあれば儂がこいつを追い出してやるさ。」
「……分かりました。」
その会話を聞いて銀狐は満足そうな顔をしている。
「ほんじゃ、粥を食べようかね。」
今日からとんでもない日々の始まりだと陽香は悟った。