「今日は沢山採れたな。湊さんも喜んでくれるかな。」
いつになく上機嫌の陽香は山菜も採り終えたので、辺りを散歩することにした。獣道を通り抜け、あたり一面紅葉に飾られた風景を見るととても落ち着く。
足元の落ち葉を見ながら歩いていると、ふと一匹の犬、否、狐が蹲っている。直様駆け寄り、安否を確認する。
「良かった。生きてる。」
上下に動く腹を見て安堵するが、弱っているのは間違いない。山菜の入った籠を一旦置き、狐を抱き上げ、もう片方に籠を持って家ヘ帰った。
湊に籠を渡し、神社にある自宅へと戻るとさっそく玄関で狐の体を洗い、水を飲ませた。食べ物は何を食べるかわからないので、とりあえず栗の実と焼き魚を用意した。食べてくれたので、陽香は少し嬉しくなって頬が緩んだ。
「お前も大変ね。」
陽香は心からそう思った。あんなに弱々しくなっても仲間は周りにいない。そんな悲しい死に方はとてもじゃないけど真平御免だ。
両親は村の人達に見守られて息を引き取った。陽香としては死んでほしくなかったけど、看取られるだけ幸せかと思った。
思わず涙が零れそうになる。陽香は歯を食いしばり食している狐をじっと見る。
「…美味しいか?」
貪り食うような狐を見てクスッと笑う。
「そうかそうか。」
可愛いな。いっそのことうちで面倒見ようかな。
そんなことを考えていると、
ボフッ!
狐の回りが煙に包まれた。何が起こったか分からず呆気にとられていると、肩まで伸びた銀色の髪に、キリッとした銀色の瞳。年は二十歳ぐらいだろうか。人間離れした顔立ちによく似合う薄い紫の着物を身に纏っている。誰がどう見ても美男子と言わざるおえない。
「礼を言う。」
「いえ、だ、大丈夫で、す。」
「まだ名乗っていなかったな。私は銀狐と申す。この度は危ないところを救っていただき感謝する。」
「………銀狐?」
「あぁ。狐のあやかし、と言ったほうがわかりやすいか。」
…あやかし、って…
「えー…!」
−チャリン。
鈴の音が聞こえた頃には、銀狐は陽香の後ろにいて抱き囲むように口を抑えている。流石に驚いた陽香は固まったまま。
「大声を出すと村の人に聞こえるぞ。」
確かにその通りだが、驚くなと言っても無理がある。あやかしが、何しにこのようなところへ来たのか。そもそも、ここは神聖な場所なのにどうしていられるのか。いろんな疑問が尽きない。
銀狐はそっと口を抑えていた手を離し、陽香の方をじっと見る。居心地が悪くなり陽香は疑問をぶつけた。
「あの、何故あのようなところに倒れていたのですか?」
陽香の中で1番始めに気になったことを聞いた。
「あれは、事情があってね。」
…はぐらかされた。だが、他にも聞きたいことは山ほどある。
「何しにあの山へ?それに何故ここに居られるのでしょう?穢れ持つ妖かしでありながら。」
「全ての妖かしが穢れを持つとは限らぬぞ。それに私は御先だ。何も問題無かろう。」
御先……神使のことか。ならば、社に入れても問題ない。
「それと用があるのはあの山ではない。」
「なら、何処へ?」
「…それより、名は何と申す。」
「…陽香でございます。」
「陽香か、良い名だ。陽香。」
「はい。」
「私のところへ嫁入りしないか?」
「……はい!?」
いつになく上機嫌の陽香は山菜も採り終えたので、辺りを散歩することにした。獣道を通り抜け、あたり一面紅葉に飾られた風景を見るととても落ち着く。
足元の落ち葉を見ながら歩いていると、ふと一匹の犬、否、狐が蹲っている。直様駆け寄り、安否を確認する。
「良かった。生きてる。」
上下に動く腹を見て安堵するが、弱っているのは間違いない。山菜の入った籠を一旦置き、狐を抱き上げ、もう片方に籠を持って家ヘ帰った。
湊に籠を渡し、神社にある自宅へと戻るとさっそく玄関で狐の体を洗い、水を飲ませた。食べ物は何を食べるかわからないので、とりあえず栗の実と焼き魚を用意した。食べてくれたので、陽香は少し嬉しくなって頬が緩んだ。
「お前も大変ね。」
陽香は心からそう思った。あんなに弱々しくなっても仲間は周りにいない。そんな悲しい死に方はとてもじゃないけど真平御免だ。
両親は村の人達に見守られて息を引き取った。陽香としては死んでほしくなかったけど、看取られるだけ幸せかと思った。
思わず涙が零れそうになる。陽香は歯を食いしばり食している狐をじっと見る。
「…美味しいか?」
貪り食うような狐を見てクスッと笑う。
「そうかそうか。」
可愛いな。いっそのことうちで面倒見ようかな。
そんなことを考えていると、
ボフッ!
狐の回りが煙に包まれた。何が起こったか分からず呆気にとられていると、肩まで伸びた銀色の髪に、キリッとした銀色の瞳。年は二十歳ぐらいだろうか。人間離れした顔立ちによく似合う薄い紫の着物を身に纏っている。誰がどう見ても美男子と言わざるおえない。
「礼を言う。」
「いえ、だ、大丈夫で、す。」
「まだ名乗っていなかったな。私は銀狐と申す。この度は危ないところを救っていただき感謝する。」
「………銀狐?」
「あぁ。狐のあやかし、と言ったほうがわかりやすいか。」
…あやかし、って…
「えー…!」
−チャリン。
鈴の音が聞こえた頃には、銀狐は陽香の後ろにいて抱き囲むように口を抑えている。流石に驚いた陽香は固まったまま。
「大声を出すと村の人に聞こえるぞ。」
確かにその通りだが、驚くなと言っても無理がある。あやかしが、何しにこのようなところへ来たのか。そもそも、ここは神聖な場所なのにどうしていられるのか。いろんな疑問が尽きない。
銀狐はそっと口を抑えていた手を離し、陽香の方をじっと見る。居心地が悪くなり陽香は疑問をぶつけた。
「あの、何故あのようなところに倒れていたのですか?」
陽香の中で1番始めに気になったことを聞いた。
「あれは、事情があってね。」
…はぐらかされた。だが、他にも聞きたいことは山ほどある。
「何しにあの山へ?それに何故ここに居られるのでしょう?穢れ持つ妖かしでありながら。」
「全ての妖かしが穢れを持つとは限らぬぞ。それに私は御先だ。何も問題無かろう。」
御先……神使のことか。ならば、社に入れても問題ない。
「それと用があるのはあの山ではない。」
「なら、何処へ?」
「…それより、名は何と申す。」
「…陽香でございます。」
「陽香か、良い名だ。陽香。」
「はい。」
「私のところへ嫁入りしないか?」
「……はい!?」