…何処へ行ったのだろうか。
寺に行ったものの僧はおらず、来た道を辿っていた。
竹藪の細い通り道を通っていると、前から菅笠を冠った男が後ろに大荷物を抱え歩いている。
お互い通り過ぎたところで氷白は立ち止まった。
通り過ぎた者に声を掛けたが、驚くほど低い声が出た。
「おい。お前、その無駄に大きい袋は何だ?」
「単なる壺ですよ。最近花を生けるのに流行っていましてね、大きな作品を作ろうと思ったらこれくらい大きいのを買ったほうがやり甲斐がありましょう?」
その男の口元には薄っすらと笑みが浮かんでいる。
「無駄口も大概にしろ、僧。人間界に着いてすぐ出会い頭に背後から気力を吸い取っただろう。陽香が来たから立ち去ったようだが…、礼を返しに来たぞ。」
「何を仰るやら。貴方のほら話には付き合ってられぬ。それでは、御暇させていただきます。」
再び歩き出した僧を再び呼び止める。
「おい、鬼。」
僧の肩が大きく揺れる。
「陽香を返せ。」
その言葉降参したのか、不気味な笑い声が聞こえる。
振り返れば、袋から陽香の姿が現れた。気絶した彼女を見て目の前の者に憎悪しか感じられない。
上級の鬼のようだがそんなことはどうでもいい。
−チャリン。
鈴の音が聞こえた頃には僧との距離は無きに等しい程近かった。
油断していた僧を火だるまにし、素早く陽香を僧から取り上げた。
「返してもらうぞ。」
「ゔぁーー!」
酷い叫び声が聞こえてくるが、聞こえてないと言わんばかりに背を向け、陽香の安否を確認する。
髪が乱れ、打撲している箇所や切り傷がいくつもあるが、無事生きているので安堵しそれはそれは優しく抱きしめた。
「おのれ!おのれ!よくもー!」
角を生やし、ぎょろりとした目と牙を持った赤い鬼が叫び声と共に飛び掛かった。
「うるさい。」
陽香を優しく寝かせ、鬼に向き直った。既に物理攻撃をしようとしていた鬼に蹴りを入れる。まともにくらった鬼は吹っ飛び、地面へ叩きつけられる。
「がはっ。……くそっ。もう少しで巫女を喰えたのに……。」
「ふざけるな。何故巫女を喰う?」
「何故?あそこの村だけ手出しができなかった。人を殺すことができなかった。」
「…だから、人々を知れず守っていた巫女を喰おうと?」
「あぁ、それに巫女は喰えば力が増すしな。」
クククッと笑う姿は正に悪鬼そのものだった。
「…もういい。喋るな。」
高ぶった感情のためか、妖力が今までよりも込められた火を悪鬼に放った。悪鬼は、それを避け、すぐに態勢を整える。
その後も妖力のぶつけ合いが続き、地面が揺れる。
陽香が目を覚ますとすぐに悪鬼が近づこうとした。
「陽香に近づくな。下賤。」
目が鋭くなり、悪鬼が気圧される。流石、神使といったところか。悪鬼の少しの隙を見逃すことなくねじ伏せ、回りを火で覆う。何やら氷白が唱え始めると、悪鬼は悶え始め、火が消えて陽香の目に入った頃には泡となって天に昇っていった。
役目を終え、氷白は陽香の元へ行く。
「氷、白…?ここは……。」
「大丈夫か?」
「はい、あ、有難う、ござい、ます。」
涙を流した陽香を今度は強く抱きしめた。「怖かっただろう。よく頑張ったな。」
優しく声を掛けると、幼い子供のように泣いた。氷白は、とても可愛らしく感じたが、同時に危険に晒したことの罪悪感と無力感に苛まれた。
「すまなかった。お前を1人おいていくべきではなかったな。」
「いえ、無事なのは氷白…のお陰です。」
その後、怖くて立ち上がれない陽香を抱き上げ家に帰った。
「だ、大丈夫です!自分で歩けます。」
恥ずかしがりながら反論する姿はとても幼く見えて微笑する。すると、陽香は更に顔を赤らめた。それが堪らず面白く、声を上げ笑った。
「はは、愉快だな。黙って捕まっていろ。」
「嫌です。降ろしてください。」
「そのように騒いでは幼子のようだぞ。」
煽るように笑みを浮かべると、幼子と言われたのが嫌なのか頬を膨らまして黙った。
…これまた愉快。
「はは。陽香はまだ幼いな。」
「な!?」
氷白は頬を捻られながら家路を辿った。
村に着けば湊が泣きながらお礼を言うは、村人達から囲まれるはでとても大変だったが、2人きりになれば落ち着くことができた。
夜になり、大体の話は陽香から聞くことができた。陽香に縁談の話を持ちかけ神社に戻ろうとする陽香を後ろから不意打ちで狙い、村では巫女の加護があるため隣村に連れ帰ったようだ。話を聞くともう1度痛い目に合わせてやりたくなった。
「今日は月が綺麗ですね。」
「そうだな。」
隣りにいる陽香は傷だらけになっており痛々しいが、笑っている。
静かに輝く月を見ながら和やかな時間を過ごした。
寺に行ったものの僧はおらず、来た道を辿っていた。
竹藪の細い通り道を通っていると、前から菅笠を冠った男が後ろに大荷物を抱え歩いている。
お互い通り過ぎたところで氷白は立ち止まった。
通り過ぎた者に声を掛けたが、驚くほど低い声が出た。
「おい。お前、その無駄に大きい袋は何だ?」
「単なる壺ですよ。最近花を生けるのに流行っていましてね、大きな作品を作ろうと思ったらこれくらい大きいのを買ったほうがやり甲斐がありましょう?」
その男の口元には薄っすらと笑みが浮かんでいる。
「無駄口も大概にしろ、僧。人間界に着いてすぐ出会い頭に背後から気力を吸い取っただろう。陽香が来たから立ち去ったようだが…、礼を返しに来たぞ。」
「何を仰るやら。貴方のほら話には付き合ってられぬ。それでは、御暇させていただきます。」
再び歩き出した僧を再び呼び止める。
「おい、鬼。」
僧の肩が大きく揺れる。
「陽香を返せ。」
その言葉降参したのか、不気味な笑い声が聞こえる。
振り返れば、袋から陽香の姿が現れた。気絶した彼女を見て目の前の者に憎悪しか感じられない。
上級の鬼のようだがそんなことはどうでもいい。
−チャリン。
鈴の音が聞こえた頃には僧との距離は無きに等しい程近かった。
油断していた僧を火だるまにし、素早く陽香を僧から取り上げた。
「返してもらうぞ。」
「ゔぁーー!」
酷い叫び声が聞こえてくるが、聞こえてないと言わんばかりに背を向け、陽香の安否を確認する。
髪が乱れ、打撲している箇所や切り傷がいくつもあるが、無事生きているので安堵しそれはそれは優しく抱きしめた。
「おのれ!おのれ!よくもー!」
角を生やし、ぎょろりとした目と牙を持った赤い鬼が叫び声と共に飛び掛かった。
「うるさい。」
陽香を優しく寝かせ、鬼に向き直った。既に物理攻撃をしようとしていた鬼に蹴りを入れる。まともにくらった鬼は吹っ飛び、地面へ叩きつけられる。
「がはっ。……くそっ。もう少しで巫女を喰えたのに……。」
「ふざけるな。何故巫女を喰う?」
「何故?あそこの村だけ手出しができなかった。人を殺すことができなかった。」
「…だから、人々を知れず守っていた巫女を喰おうと?」
「あぁ、それに巫女は喰えば力が増すしな。」
クククッと笑う姿は正に悪鬼そのものだった。
「…もういい。喋るな。」
高ぶった感情のためか、妖力が今までよりも込められた火を悪鬼に放った。悪鬼は、それを避け、すぐに態勢を整える。
その後も妖力のぶつけ合いが続き、地面が揺れる。
陽香が目を覚ますとすぐに悪鬼が近づこうとした。
「陽香に近づくな。下賤。」
目が鋭くなり、悪鬼が気圧される。流石、神使といったところか。悪鬼の少しの隙を見逃すことなくねじ伏せ、回りを火で覆う。何やら氷白が唱え始めると、悪鬼は悶え始め、火が消えて陽香の目に入った頃には泡となって天に昇っていった。
役目を終え、氷白は陽香の元へ行く。
「氷、白…?ここは……。」
「大丈夫か?」
「はい、あ、有難う、ござい、ます。」
涙を流した陽香を今度は強く抱きしめた。「怖かっただろう。よく頑張ったな。」
優しく声を掛けると、幼い子供のように泣いた。氷白は、とても可愛らしく感じたが、同時に危険に晒したことの罪悪感と無力感に苛まれた。
「すまなかった。お前を1人おいていくべきではなかったな。」
「いえ、無事なのは氷白…のお陰です。」
その後、怖くて立ち上がれない陽香を抱き上げ家に帰った。
「だ、大丈夫です!自分で歩けます。」
恥ずかしがりながら反論する姿はとても幼く見えて微笑する。すると、陽香は更に顔を赤らめた。それが堪らず面白く、声を上げ笑った。
「はは、愉快だな。黙って捕まっていろ。」
「嫌です。降ろしてください。」
「そのように騒いでは幼子のようだぞ。」
煽るように笑みを浮かべると、幼子と言われたのが嫌なのか頬を膨らまして黙った。
…これまた愉快。
「はは。陽香はまだ幼いな。」
「な!?」
氷白は頬を捻られながら家路を辿った。
村に着けば湊が泣きながらお礼を言うは、村人達から囲まれるはでとても大変だったが、2人きりになれば落ち着くことができた。
夜になり、大体の話は陽香から聞くことができた。陽香に縁談の話を持ちかけ神社に戻ろうとする陽香を後ろから不意打ちで狙い、村では巫女の加護があるため隣村に連れ帰ったようだ。話を聞くともう1度痛い目に合わせてやりたくなった。
「今日は月が綺麗ですね。」
「そうだな。」
隣りにいる陽香は傷だらけになっており痛々しいが、笑っている。
静かに輝く月を見ながら和やかな時間を過ごした。