「紅葉が綺麗だな…。」
陽香(ひのか)は彩られた山々を見ながら、鳥居辺りの落ち葉をほうきで集めていた。
陽香の家は代々神社を運営していた。しかし両親は6歳になった時、病死した。以来、村の人に支えられながら陽香は1人でこの神社を守ってきている。
陽香は今年で16となった。もう嫁いでもいい頃だが、縁談の話など到底来るわけもなく1人呑気に暮らしていた。
本人は自分なんかが嫁入りするなど痴がましいと思っているが緩く束ねなれた青みがかった真っ直ぐな髪に白と赤の巫女装束、目は微かに紫がかっており顔立ちも整っていて村では絶賛の美女。大人しくその立ち振舞は将軍の妻であろうかと思わせるほどだ。
では、何故縁談の話が来ないのか…。
それは、村長の1人娘の菜月のせいであろう。自分が1番でないと許せない菜月は次々と縁談を潰して陽香の耳に入らないようにしている。それだけでは止まらず、嫌味を言いに来たり、酷いときには水を頭から掛けたり神事の邪魔をしてくる。
それでも陽香はやり返しては罰が当たると何も言わず耐えている。
それに面と向かって好意を向けられても疎いため話が噛み合わず、結果誰とも逢引をすることなく仕事に励んでいる。
「おーい、陽香!」
「はい。(みなと)さん、どうかされましたか?」
小太りした還暦間近に見える男性が走ってくる。彼は湊といい、よく陽香の面倒を見てくれた。奥さんは2年前に亡くなり今は1人でたまに陽香の世話をしてくれている。
「山菜を採りに行ってくれるかい?」
「はい。」
「あ~、でも最近隣村で物騒なことが起こっているって言うしやめたほうがいいな。」
「いえ、散歩に行くつもりでしたし山菜採りなら大丈夫でしょう。」
「ならいいが。くれぐれも気をつけるんじゃぞ。」
「はい。」
優しい笑みを浮かべ、山菜採りに出かけた。