改札なのに、改札機がない。ヤマンバのマネをして、駅員さんに、切符を渡す。
 カチカチカチカチ。切符に切り込みを入れられた。
 切符返してもらい忘れそうになって怒られた。走る。
「ギリギリセーフっしょ!」
 ぐしょ濡れの2人が、乗客が降りきって、ガラガラの電車に乗る。
 今日の花火大会のために、この駅で降りる人はたくさんいるが、乗る人は少なかった。
 ベルが鳴り終わり、
『駆け込み乗車はおやめください。危険です』
 車掌のアナウンスで怒られたのは、きっと私たちだ。
「チョベリバ〜」と不服っぽく言いつつ、「見て!」
 ヤマンバに促されるまま、座った座席から、窓の外を見る。
 窓の立て付けが悪い。左右にあるレバーを力一杯持ち上げ、開ける。
 風が。火薬のにおいを運んできた。
 車窓から花火が見える。川沿いで見るよりも、花火の高さに近い。キレイだ。
「ふわあああああ」
 電車が、速度をゆるめた。川を渡る橋の上で、徐行になる。ほとんど、止まりそうになる。
『本日、花火大会です。ほんの少し、停車いたしますので、お楽しみください』
 粋なことをやってくれる。
「チョベリグ〜!」
 どうやら、ヤマンバも喜んでいる。
 花火が上がってる。赤、青、黄色。大きくて丸く、いくつも、重なって。
 どーん、どどどどーん。
 どどどーん。どーーーーん。
 ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら……。
 開けた窓から、風が入ってくる。気持ちいい。また花火が上がる。大きい。
「たーまやー!」
 ヤマンバが、叫んだ。
 その時、初めて、電車内の明るい光の下で、ヤマンバの顔を見た。なんというか、想像を超えたバケモノだった。
 真っ白な白髪は、ショートカットで、ふわりとしていて、色は、ハイブリーチをしたシルバーっぽかった。もしかすると痛んでそうだけど、私にはそう見えなかった。風にさらさら流れてる。きれい。
 顔は、確かに黒い。日焼けした肌に、濃いブラウン系のファンデーションで塗りたくっていて、目の周りは白く抜いてるようだった。
 唇は、白い口紅なんてあるのかな。
 どうも、これらはほとんど、メイクで作られてるっぽい。
 だから、その本体は、バケモノでも鬼婆でも、ヤマンバでもなくて、ちゃんと若い高校生女子のようだった。
 確かに、メイクはどぎついけど、それ以上に、なんというか、きれいな顔だった。