中学との時から特に発達も成長もしていない身体だけど、おかげで問題なく着ることができる、浴衣。クラスメイトと花火大会に行くと言ったら、母が、ものすごく嬉しそうに、ウキウキしながらタンスから引っ張り出し、着せてくれた浴衣。
 そんなモノいらないよ、私服でいいよ、といっても、全然言うこと聞いてくれない。
「何言ってんの。花火大会と言えば、浴衣。ちゃんと浴衣を着ていかないと後悔するよ!」
 強引に着せられた。
 後悔した。
 まさか、花火大会に行って、水浸しになるなんて、母も思いもよらないだろう。
 私だって思わなかった。なんでこんな目に遭わなきゃイケないのか、さっぱりわかんない。
 わかんないよ!
 なんで、クラス中からはぶられなきゃイケないのかも、なんでそれが私なのかも、まったくわかんない。
 あの子、なんなの。何がしたいの?
 そりゃ、あの子、結構可愛いと思うよ。なんだったら、私が男だったら、ほっとかないかもしれない。ちっこくて、可愛くて、笑顔がキュートで、私をいじめる。
 もうやだ。やだやだやだやだ。やだっ!
 そっとしといてくれればいいのに! 何でわざわざ私に関わるんだよ!
 もうやだ、もうやだ、もうやだ!
 もういっそ、このまま池の中で死んでしまったら。
 もう二度と、池から上がらなければ。何も悩まなくていい。ああ、そうだそれがいい。
 身体から力が抜ける。もう、モガモガする必要性も感じない。これで楽になる。
 そう思ってたら。

 ドボンチャン!!!(ドボンとボチャンの合成語)

 何何何何!? 私のそばに、誰かが飛び込んできた。
「ウィーッス」
 あまりに驚いたので、思わず、池の中からザブッと、顔を上げた。
 目の前に、バケモノがいた。
「ぎゃあああああああ」
 真っ白な髪を振り乱し、真っ黒な顔面、目の周りと唇が真っ白にひん剥かれて、これでもかってくらいに大きな口は、私を食べようとしている! あれだ、えーと、昔話に出てくる、
「ぎゃあああああああ」
 鬼婆だ!
「チョベリバ〜! 誰が鬼婆だっての!」
 バケモノが、突っ込んできた。えっと、ここで言うのは、ボケツッコミのツッコミで、その言葉の後、物理的に、突っ込んできた。つまり、池の中を、私めがけて突進してきた。
「ぎゃあああああああ! 食われる!」
「食わねえよ!」