どんなことを言っても、言葉を発したというただそれだけの理由で、私は、またより以上のアザを作る羽目になることを。余計なことは言わない。それが最善。
 本当に?
「いくら入ってんのかなあ〜?」
 散々、小突き回されてアザを増やしてくれた後で、持ち歩いていた、巾着を取られた。中身は、財布と、スマホと、リップとか。中を物色され、財布を出される。
「なんだよ、ぜんぜん入ってないじゃん!」
 こうなることは半ば予測できたことで、わざわざ、あんたに渡す為に財布にお金入れるわけないでしょ。
「ま、いいけど。調子に乗って、私たちに近づくなよ?」
 そう言って、私から奪った巾着袋を、神社を囲む木々の暗闇の中に、放り投げた。
「あっ」
 我ながら、なんて人ごとみたいな声が出たんだろう。「あっ」だって。
 ところが、そんなにのんびりとも構えられていられなかった。
 隙を見て近づいてきたその子に、浴衣の帯の間に、手を突っ込まれ、まさぐられた。
「ちょっと、やめて! やめてってば!」
「あった」
 帯から彼女が取り出したのは、5000円。母からもらったお小遣い。
 使うのはいいけど、後々自分でバイトして返さないといけない、5000円。
 もしものために、帯の間に隠しておいた、5000円。
「やーん。もうちょっと欲しいけど、今日はこれでいいいよ」
 たこ焼きとか焼きそばとかりんご飴とか綿菓子とかから揚げとか牛串焼きとかお好み焼きとか。
「もらっとくねー」
 お礼の言葉と共に、ドン、と押された。
 同じタイミングで、夜空に、大輪の花が咲いた。

 ドーーーーーーーーーーーーーーン!

「え」
 衝撃音に合わせて、私の身体は、宙に舞った。
 私はいつの間にか、神社の真ん中にある池のそばに来ていた。そこから押され、ひっくり返るように、池へ。

 ドボン!

 ガボガボガボガボ。息ができない!
 思ったよりも、池が深かった。
 得意な方ではないけど、全く泳げないわけじゃない。だけど、浴衣を着て着衣水泳は、したことはない。モガモガともがいて、でも、頭の中には、別のことが渦巻いていた。
 2年前に買ってもらった、浴衣。