私の言い分は、全く聞いてもらえなかった。要するに、母は、自分の娘が、全部悪いと言っているのだ。そうなんだろう。私が悪い。悪い?
 母に頼ることはできない。
 さりとて、父は、そもそも仕事だかなんだかわかんないけど、数週間に一回しか顔を見ない。ほとんど、テレワークだから家の中にいるはずなのに、何やってるんだろ。父親としてどうかとは思うけど、別にこっちも干渉したいわけじゃないから、どうでもいい。

 夏休みは、いい。
 合法的に、誰とも会わないで済む。もちろん、家にいれば母に文句言われ、父は存在がかき消えてるからどうでもいいけど、連日友だちとプールに行ったり映画に行ったりしている妹から、なんだか馬鹿にしたような目線を感じなくもないけど、あんたみたいな陽キャとこっちは違うんだ。姉妹だからって、放っといて。
 夏休みの間に、やりたいと思っていたことなんて特になく、ただ舞庵に過ごせればいい。もう誰とも一生会わなくていい。そう思ってた。
 あのLINEが入るまでは。

 珍しく、クラスのグループLINEが入った。
 みんなで花火大会に行くらしい。確かに今日は、ちょっと先にある川沿いで、花火大会の予定だった。妹は、友だちや彼氏(生意気にもいるらしい。うらやましくはない)と、一緒に行くらしい。もっと小さい頃は、家族で観に行ったような記憶もないわけじゃないけど、遥か昔過ぎて、あんまり覚えていない。
 花火大会。そう行きたいわけでもなかったけど、行かなければ行かないで、何を言われるか、何をされるかわかんない。後で何が起きるかわかんないから、行くだけ行って、すぐに帰ろう。よし。
 ついでに、たこ焼きとか焼きそばとかりんご飴とか綿菓子とかから揚げとか牛串焼きとかお好み焼きとかくらいは食べてもいいかな。うん。
「花火大会に行く」
 母に言うと、お小遣いをくれた。5000円。太っ腹だ。
「友だちと楽しんできなさい」
 珍しい。
「お金は、バイトして返せよ」
 いつも通りだった。でも、5000円は大金だ。大事に使おう。

 全部、間違いだった。花火大会なんて、行くべきじゃなかった。

「ねえ、なんで来ちゃったの? 自分も呼ばれたと思ったの?」
 もうそろそろ、最初の花火が上がろうか、という時刻だった。
 花火大会の会場は、家から3駅ほど離れたところだった。