川沿いの神社にまつわる文献なんてのもあった。神社の中に、時代や時間を歪めてしまうゲートみたいなものがあるとかないとか。元々神域である神社の境内で、強い思いを持つと、時を越える神様が願いを叶えてくれるとか何とか。
 文献自体が最近作られたSFぽくて嘘くさいので、眉唾だ。
 お目当てのアルバム。
 30年前、母が女子学生だった頃の写真。どうしても、見たかった。
 ものすごく嫌がってたけど。パラパラめくる。中学の陸上競技で、県大会で入賞した写真は、ひときわ輝いていた。
 日に焼けた、健康的なスポーツ女子高生。
 黒いショートカットの髪の毛はさらさらで、化粧気のないきめ細かい褐色の肌は、ただただうらやましくて、すらりと伸びた手足。眼が大きく、口が大きい。背は低い。
一つだけ質問した。
「……ねえ、好きな先生いた?」
「そりゃいるでしょ」
「そういうことじゃなくて。本気で。恋愛対象として」
「何言ってんの、この子は」
 食事の片付けも終わり、母は、超高い化粧品を使って、念入りに、お肌の手入れをしていた。今日も一日、仕事で疲れたらしい。パックを付けてて、顔面真っ白のさながらバケモノ。美白の意識が高い。
「ものすごく、憧れてる人はいた。物知りで、何でも知ってて、ああ、こういう人になりたいなって思わせてくれた人。全然、なれないけどね」
「告白とかしたの? 好きだったんでしょ?」
「うーん、好きって言うか、定年間近の、おばあちゃんの先生だよ」
 は!?
「おばあちゃん!?」
「いいでしょ、別に。すらりと背筋が伸びて、たたずまいが静かで、なんて言うか、高貴な雰囲気があって……」
 そう言いながら、不服そうに、眉間にしわを寄せる。
「年齢も性別も、人を好きになるのに関係ないでしょ」
 照れながらそういう母。お肌のシミ対策に余念がない。
「いいから、早く宿題しなさい! まだレポート終わってないでしょ!」
 横顔が、少しふっくらしたかな。大きな目と大きな口。
「このメイク、この頃の流行だったんでしょ?」
 写真の数はとても少ないけど。
「その辺りの時代、見んな!」
 本人的には、黒歴史らしい。まさに黒い。
「ガングロ、似合ってるじゃん」
 にやにや。
「あんたの下手くそヤマンバメイクも、似合ってたよ〜」
 そのメイクしてくれたの、誰だっけ?
 チョベリバ〜。