花火が終わって、気づいたら、私が暢気に立ってたもんだから、パニック状態に陥ったという。
 それらを、泣きじゃくりながら、ものすごくこっちを責めながら言うのが、如何にもこの子らしい。
 私は、とりあえずまず、巾着袋を返してもらった。彼女は、自分で神社の周りの木々の中に放り投げた巾着袋を、とにもかくにも探し出していた。
 お金も、スマホも、ちゃんと入ってた。ほっ。
「5000円」
「わかったよ」
 ちゃんと返してもらった。
 いつの間にかいなくなった彼女にお金、払わないと。銭湯のおばちゃんにも、お礼を。
 もう一度会いたい。
 その場を後にした。背後で声がする。
「あの……ごめん!」
「チョベリバ〜!」
 謝ったからって許しはしないけど、いじめっ子の彼女なんて、どうでもいい。相手にしなければいい。相手にしてきても、もう怖くない。
 こっちはヤマンバだぞ。

 駅に行った。自動改札。Suicaで入る。ピッ。
 二つ先の駅。普段降りない駅。駅前には、商業ビルがあって、喫茶店やパン屋さんがあった。銭湯はなかった。予想通りだった。
 駅にある交番に聞いた。警官が、私のメイクを見て一瞬ぎょっとしたが、気にしない。話を聞くと、銭湯があったのは、もう30年も前らしい。
 まだ、名前も聞いていなかった。
 褐色の肌の、ショートカットの、大好きな先生がいるヤマンバ。
 きっとあれは、私とは違う時代の、女の子。
「チョベリバ」

 家に帰り着いたのは、日付が変わる頃になっていた。
 怒られるかと思ったら、私の顔を見た母に、たいそう笑われた。
「ガングロコギャルのヤマンバメイクかよ!」
 ヒーヒー言いながら、指さして笑ってくる。
「なんか、浴衣と似合ってる。着ていってよかったろ?」
 ひとしきり笑い終わったっぽいので、ごはんは? と聞くと、
「連絡なしに遅くなったんだから、ごはんいらないと思って、片付けちゃったよ」
 と、言われた。が、そう言いつつ、ちゃんと私の分を残してあった。
 から揚げと、ハンバーグ。母の作るハンバーグは、美味しい。から揚げも。

 翌日の夜。
 食後に、母にせがんで、アルバムを出してもらった。
 いま私たちが住んでいるこの家は、母の実家を、そのまま受け継いだモノだ。
 家の中には、何十年も前のモノもたくさん保管されている。