大きな口が、にかっと笑う。ほんのり赤みが差している。
「超かわいい。チョベリグ〜!」
 心臓が高鳴る。耳に入る音が消えた。静寂。
 汗かいてる。やだ。お風呂入ったのに。汗、臭くないかな。
 私は、私は……。
「海かプール。約束だよ」
 その言葉を最後に、握っていた手の感触が消えた。
 彼女は、ふっといなくなった。

「ぎゃあああああああ!」
 悲鳴を上げたのは、私じゃない。私を池に突き飛ばした、いじめっ子だった。
「ば、バケモノ!?」
 失礼な。これは、ガングロギャルのヤマンバメイク!
 私の顔は、真っ黒に塗られ、眼の周りは白く、唇も真っ白だった。てっきり白い口紅があると思っていたら、違った。コンシーラーを、口紅代わりに使うことで、白く塗ってたらしい。ふええ。いろいろ考えられてる。
 銭湯を出るとき、ヤマンバにやってもらった。おばちゃんは、笑い転げてた。
 今まで、スキンケアは徹底的に日焼けを避けて、美白が最上だと思ってたけど、いつもと変わらないことをするのも、気分が変わって楽しい。
 バケモノでけっこう。今の私は、私であって私じゃない。少なくとも、池に突き飛ばされてた私じゃない。
 なにより、いじめっ子が驚いてるのが、痛快だった。
「何それ、メイク?」「なんで、浴衣乾いてんの?」「なんなの!?」
 なんだ。このクラスメイト、やっぱり普通に可愛いじゃん。矢継ぎ早に、いろいろ質問してくる。
「だいたいあんた! どこ行ってたの!?」
 ようやく慣れたのか、私の方につかつかと寄ってきて、そう怒鳴った。
 息を切らして、半泣き状態になってる。
 彼女の話を要約すると、花火大会が始まる前に、確かに彼女は、私を突き飛ばして、池に落とした。
 落としたはいいが、その瞬間、私がいなくなってしまい、池の中で溺れてるんじゃないか、だとしたら、死んでしまうんじゃないかと、不安になった。イタズラレベルならともかく、人殺しになるのは怖いわけだ。
 怖くなったはいいが、人を呼べば、自分が突き落としたこともバレてしまう。
 一瞬、放っておこうかと思って、クラスのみんなと合流もしたけど、花火なんかと見てもとても見ていられない。段々怖くなってきて、花火大会の間、ずっと、1人で神社の中を、私を探していたらしい。