スポーツマンらしい彼女の引き締まった褐色の身体には、無数の傷があった。小さくて、目立たない、いつか消える、一生消えない傷。
 私と同じように。ああ、この人も。この人も、そうなんだ。
 逃げるのをやめた。背中向きに、私も浴槽の中で立ち上がる。そのままゆっくりと、彼女の方に向き直った。
「……ちっちゃくね」
「は?」
「おっぱい、ちっちゃいね」
 カーッときた。何それ何それ!? 人が勇気を出したのに、言うこと、それ!?
「そっちだって!」
 おっぱい、ブラの形で日焼けしてるから白かった。妙に生々しい。
 そして、小さかった。偉っそうに! お互い様じゃん!
「いや、あんたよりはあるよ」
「ないよ! 少なくとも、偉そうに言うほどはない!」
 私たちは、湯気立ちこめる銭湯の湯船で、お互いにおっぱいさらして全身押っ広げて、何をしてるんだろう?
 馬鹿馬鹿しくなって、ふたりして笑った。
 ふふふふふふふふふふふふふふふふふ……
 ははははははははははははははははは!
 改めて、お湯につかる。今度は、2人並んで、寄り添って。
 ふうううううう。熱いお湯に、全身がとろける。
 だんだん、お湯に慣れてきた。
「チョー気持ちいいよね〜」
 そういう彼女は、お湯で顔を洗った。メイクはもう落としてる。
 黒い。けど、メイクの黒さではなく、褐色のキレイな肌。スポーツをやってる、健康的な肌。
「焼けてるんだね」
 目の周りや唇に塗ってた白いラインは消えて、ナチュラルにキレイな顔だった。
 どうしてだろう。見ててどこか安心する。吸い込まれそう。
「部活?」
「それもそうだけど、プールにも行ったりしたからかな〜」
 いいな。楽しそう。
「今度、一緒に行く?」
「……いいの?」
「海とプール、どっちがいいかな?」

「さっきの、花火の話」
 玉屋と鍵屋。
「よくあんな話知ってるね」
 そういうと、顔の色が如実に変わった。
 真っ黒メイク、日焼けした肌、更に、真っ赤になっている照れた肌。
「あのね、実はね」メイクを落とすと、人格も変わるのか、ヤマンバ、モジモジして、
「ただの受け売りなんだ。先生から教えてもらって……」
 へえ。
「先生、めちゃくちゃ頭よくて、物知りで、知らない事なんて何にもないって感じで、すごく、すごく」と、溜めるだけ溜めて、
「イイ人なんだ……」