ハクション! 長いこと、水に濡れたままだったから、身体が冷えてる。
 早く風呂に入れと促された。
 サービスしとくからと言われたタオルを受け取り、浴室に入った。
「ゆっくり浸かっておいで」

 広い。タイル張りの床、壁。たっぷりの湯気。
 洗い場があって、奥に、大きな浴槽。壁には、富士山と、大きな花火の絵が描かれてる。
 彼女は、もう、浴槽に浸かっていた。
「ちゃんと身体洗ってから入れよー?」
 言われたとおり、身体を洗う。シャワーのお湯が、熱い。
 でも、気持ちいい。どうしようかと思ったけど、髪の毛も濡れていたから、頭から洗った。
 タオルで石鹸を泡立てて、全身に付いた垢を落とすように、これでもかとゴシゴシ削るように洗った。何もかもを洗い流してしまえるように。嫌な記憶も、惨めな自分も、新しくできたばかりの青アザも。
 消せるわけないのに。
 全身洗って、泡を流して、浴槽へ。ここ最近、シャワーばっかりだったから、大きなお風呂が気持ちいい。と思ってお湯につかろうとしたけど、
 あっつい、あっつい! お湯、熱いよ!
 指先すら入れられない! 何これ熱いよ!
 何回も脚を突っ込んでは引き抜いて、ヤマンバに笑われて、何度も何度も逡巡してから、ようやく、脚を一本、続いて二本、そこからゆっくり、腰を落として、お湯につかれた。
 ふわああああああああああ。
 彼女が入っている、浴槽のできるだけ遠くに。 
「いや、なんでだよ!」
 近くに来いと言われたけど、拒否。
 いじめが、陰湿なのは、バレないように、見えないところを攻撃してくること。
 私の身体には、いくつもの、小さな青アザと傷がある。きっとこの傷は、そのうち消えるくらいの小さな傷。だけど、たぶん、一生記憶からは消えない。
 そんなモノ、見られたくないし、ヤマンバに見せたくない。
 ところが、そんなこと構わず、彼女は、湯船の中をジャブジャブと、立って歩いて近寄ってくる。
 ぎゃあ。
 すーっと肩までつかったまま、逃げる。
「趙ウケる。ふざけてんの?」
 ふざけてないもん。真剣だもん。
「気にしないから!」
 と、彼女は、湯船の中で、両手を広げて、仁王立ちになった。
 その全身を見せてくれてる。首を回して、彼女の裸を見る。