という話を聞きながら、私は、どうしてか、彼女の横顔ばかりを見つめていた。
「ところがね」
ここから先が面白いと言わんばかりに、ヤマンバは、話を続ける。
私はじっとヤマンバの顔を見ている。
「鍵屋さんは、なんと、1659年から今まで、330年も残ってる。でも、玉屋さんの方は、鍵屋よりも人気があったのに、もうなくなってる」
「なんで?」
私が話に興味を持ったのが嬉しかったらしい。にやりとしてその理由を話す。
「実は、玉屋さんは、花火の管理ミスで、大火事を起こしちゃった。当時は火事を起こすってめちゃくちゃ大きな罪になるから、玉屋さんは、追放されて、家名断絶になった」
ふんふん。
「人気のあった玉屋は、たったの一代でなくなって、師匠筋の鍵屋は今も残ってる……」
言いながら、ニヤニヤしている。
あ、じゃあもしかして……玉屋の人気を妬んだ鍵屋の人が、実は……
「ね、ね、ね。なんか、ミステリがあるっぽくね?」
白い大きな口で、にかっと笑う。
「ぽいぽい!」
「ところが」
と一転。
「全然、そんなことないどころか、鍵屋の師匠は、ずっと玉屋のことを気に懸けてくれてたんだって。で、どっちもたたえて、今もたまやとかぎやの声だけが残ってるって」
なんだ。なんかあるんじゃないかと、期待しちゃったよ。
「何かあったと考えるうちらの方が、よっぽど心が汚れてるっぽいわ」
う。言われてみると。
しかし、見た目に反して、このヤマンバ、なんというか、博学だった。
花火の音が、電車の後方に流れていく。
夏の夜空が、色とりどりに煌めいている。そこはもう、過去だ。
2つ先の駅で降りた。うちとは反対側だから、普段あまり来ない駅。
駅舎の前に、銭湯があった。こんなところに、銭湯あったんだ。彼女は、ためらうことなく、当たり前のように私の手を引いて、銭湯に入っていく。
ちょちょ、ちょっと待って!
「銭湯行くの!?」
「たりめーっしょ」
ものすごく、馬鹿にされたような目で見られた。何このヤマンバ。
そりゃ、池に入ってぐしょぐしょの身体を、洗いたいとは思うけど、でも——
「だって、でも、行ったことないよ?」
「じゃあ、あたしと銭湯初体験だ」
彼女は止まることなく、銭湯ののれんをくぐった。
「おばちゃん! 2人ね!」
「ところがね」
ここから先が面白いと言わんばかりに、ヤマンバは、話を続ける。
私はじっとヤマンバの顔を見ている。
「鍵屋さんは、なんと、1659年から今まで、330年も残ってる。でも、玉屋さんの方は、鍵屋よりも人気があったのに、もうなくなってる」
「なんで?」
私が話に興味を持ったのが嬉しかったらしい。にやりとしてその理由を話す。
「実は、玉屋さんは、花火の管理ミスで、大火事を起こしちゃった。当時は火事を起こすってめちゃくちゃ大きな罪になるから、玉屋さんは、追放されて、家名断絶になった」
ふんふん。
「人気のあった玉屋は、たったの一代でなくなって、師匠筋の鍵屋は今も残ってる……」
言いながら、ニヤニヤしている。
あ、じゃあもしかして……玉屋の人気を妬んだ鍵屋の人が、実は……
「ね、ね、ね。なんか、ミステリがあるっぽくね?」
白い大きな口で、にかっと笑う。
「ぽいぽい!」
「ところが」
と一転。
「全然、そんなことないどころか、鍵屋の師匠は、ずっと玉屋のことを気に懸けてくれてたんだって。で、どっちもたたえて、今もたまやとかぎやの声だけが残ってるって」
なんだ。なんかあるんじゃないかと、期待しちゃったよ。
「何かあったと考えるうちらの方が、よっぽど心が汚れてるっぽいわ」
う。言われてみると。
しかし、見た目に反して、このヤマンバ、なんというか、博学だった。
花火の音が、電車の後方に流れていく。
夏の夜空が、色とりどりに煌めいている。そこはもう、過去だ。
2つ先の駅で降りた。うちとは反対側だから、普段あまり来ない駅。
駅舎の前に、銭湯があった。こんなところに、銭湯あったんだ。彼女は、ためらうことなく、当たり前のように私の手を引いて、銭湯に入っていく。
ちょちょ、ちょっと待って!
「銭湯行くの!?」
「たりめーっしょ」
ものすごく、馬鹿にされたような目で見られた。何このヤマンバ。
そりゃ、池に入ってぐしょぐしょの身体を、洗いたいとは思うけど、でも——
「だって、でも、行ったことないよ?」
「じゃあ、あたしと銭湯初体験だ」
彼女は止まることなく、銭湯ののれんをくぐった。
「おばちゃん! 2人ね!」