その夏、私はバケモノに遭った。

 バケモノの名前は、
「チョベリバ〜!」
 ……ヤマンバ。

 バケモノ=ヤマンバは、びしょ濡れの私を強引に連れ出し、電車に乗った。
 電車は、本来の速度を落として、川に架かっている橋の上で、徐行して止まった。
 河原では、年に一度の花火大会をやっていた。車窓から、花火を見た。
 ヤマンバと一緒に。ヤマンバは叫んだ。
「た〜まや〜!」
 ヤマンバは、ものすごく不服そうにこっちを見た。睨まれてる。ああ、これで人生終わる。今すぐに襲われて、取って食われると感じた。
「『た〜まや〜!』っていったら、『か〜ぎや〜!』って、叫べやあ!」
「ぎゃああああああああああ!」
 ガーガー吠えてくるヤマンバも、私と同じく、ぐしょ濡れだった。真っ白な髪、真っ黒な顔面、目の周りと唇が真っ白、これでもかってくらいに人間離れした、バケモノ=ヤマンバ。
 その異形の姿が、花火と同じく、とても眩しかった。
「チョベリグ〜」

 高校2年生の頃。はっきりとした始まりはわからないけど、私はいじめられていた。
 中学までは、まあ何とか、地味なりに普通に生きていたつもりだったけど、まさか、高校生にもなって、いじめに遭うなんて、思ってなかった。
 学校は、共学。学力レベルは普通で、特に目立ったところはない。だから、私みたいに特に何もない普通の人間には、ちょうどいい学校だと思った。
 ところがぎっちょん。
 女子特有の、陰湿どころか、今時、男子でもしないような、物理的な痛みを伴ったいじめと、持ち物を切り刻まれたりするいじめ、全員から無視される精神的ないじめ、金銭をカツアゲされるいじめ、などなどなどなどエトセトラ……およそいじめとして考えられ得るものは、だいたいやられた。
 クラスの大半は、いじめに加担するグループと、我関せずを決め込んで、見て見ぬふりをする人たちに二分された。私以外。
 要するに、私の味方はどこにもいなかったわけだ。

 学校の中で孤立する分には、まあ、どうでもよかった。勉強しに行ってるわけだし、友だちが多くても、面倒くさいだけだし。ぼっち出いることが心地よい、とまではいわないけど、気が合わない人たちに合わせるのも気を遣うし、だったら、1人でいい気はしてた。