最後の巫女としての御勤めを果たした1月6日の午後9時半。

助務の巫女さんは帰宅し、正社員の巫女さんと神社を継いでる野宮一族と20人前後残って初詣の片付けをしてた。

「美月ちゃん、ちょっときて！！」

60代後半の野宮篤志 宮司が仕立てのいいスーツに身を包んだ30歳前後の見た目麗しい5人の男性を連れてやってきて、手招きされ呼ばれたから、賽銭を袋に詰める手を止め、神社の境内から出た。

一緒に賽銭を袋に詰めてた巫女さん達が、篤志宮司が連れてきた男性陣を見て、頬を赤らめて小声で「カッコいい！！」「ステキ！！」と囁いた。
私も長身で引き締まった身体つきをしたアイドルグループを連れてきたのではと勘違いしてしまうぐらいハンサム過ぎる男達を目の前にして見惚れてしまった。

「美月ちゃん、今日で御務め最後だったよね。12年間お疲れ様。神通力が宿ってるから巫女を務めた期間は恋愛御法度だったからね、これから素敵な男性と恋愛をして結婚して幸せになって欲しいと思って、結婚相手に相応しい人を探して連れてきた！！」
そういって、私に結婚相手候補の5人を紹介し始めた。

三谷財閥、三凛財閥、安井財閥、中倉財閥、野崎財閥……の御曹司。

日本で名高い財閥の御曹司の中で選ばれた容姿端麗で頭脳明晰、知勇兼備な男性が仕事始めのこの時期に、地方の神島に集められた。

身分違いなメンツを集められ、顔が引き攣り固まってしまう。

「美月ちゃん、東京で何をしてるんだっけ？」

「フリーで株式投資とFXをしてます」

祭事の度に呼び出されるから会社勤めはしてない。
東京大学の文学部を卒業してからそのまま就職したふりをして、株式投資とFXで稼ぎながら、趣味で小説家とシンガーソングライターをしてる。
最近、2ヶ月に1度のペースで小説を出版し、シンガーソングライターとしてニコニコ動画とYouTubeであげた曲がヒットし、趣味の仕事が楽しくなってきた。
ただ、澤島神社で巫女をしてるのもあり顔出しはできないからこそこそ活動をしていて宣伝活動に制限をかけてた。
巫女を辞した後は大っぴらに活動ができる。
自分がやりたい仕事を思う存分できるようになるのも楽しみだった。

「美月ちゃん、年間2000万円近く渡してるからそれを元本にマネーゲームをしてたんだ。美月ちゃん、神通力あるから儲かってそうだね！！」

儲かってる。澤島神社からの奉仕料の3分の1は実家に渡してる。
それでも、マネーゲームで年に3倍ぐらい増やせてる。
それが神通力なのかどうかはんからないけれど、運はいい方だと思う。

「美月ちゃんをお嫁さんに貰ったら、業績が好調に伸びるのは確実。
歴史上の人物が深い信仰を寄せ、繁栄している由緒ある神社だからね、宗像三女神の力が宿ってるから御利益があるよ」

篤志宮司は私を神通力がある幸運の女神と崇め、財閥の御曹司達に私の結婚の話を持っていったようだった。

「25歳までは美月ちゃんに手を出さない方がいい。穢れを赦されない身体だから。手を出すと……下手したら会社が潰れるよ」
かつて付き合おうとした学校の同級生と先輩は大怪我や試験で転けたりし、私の本気度が高いと経営してる会社が倒産したり、しかけたり、なぜか精神がおかしくなった。

当時付き合おうとして実際付き合って不幸になった好きだった人の事を思いだし、気持ちが沈む。

「3月12日の美月ちゃんの誕生日まではこの5人と友達として付き合ってみて、それから結婚する相手を選んで！！」
篤志宮司が恵比寿様のような笑みを浮かべる。
神通力とやらが本当に私にあるのかどうかはわからないけれど、男性と関わるとその相手を不幸にしたのは確かで、25歳になったからと男性と付き合って大丈夫なのか不安になった。

「……美月ちゃん、25歳になったら御役御免だから。
美月ちゃんと美月ちゃんが選んだ男が相思相愛になって生涯を共にする事を決めての契りを交わすなら、その男性に不幸は降りかからない。
遊びとか覚悟なく手を出そうとした、間違いが起きる前にその男に天罰が堕ちる」
普通では有り得ない事だけど、実際に私のせいで5人の男性が不幸になった。

篤志宮司の話を聞いたからか、三谷財閥の三谷隼人《みつやはやと》さんと安井財閥の安井翔真《やすいしょうま》以外の3人からはカタチだけ顔合わせをしたけれど、私の方から連絡をいれなかったのも関わる事はなかった。

東京に戻ってから何度かメールを貰い食事に誘われたけど、交際する気にはなれなかった。

25歳過ぎるまでは大人しくしていたいのと、神の御加護という恩恵を目的に近づいてきたかもしれないこの御曹司達の事を信じられなかった。