「…次の質問だっ。」


血まみれの麻袋を蹴って、老人の顔にぶつけた。
回転すると中から漏れる血が、周囲に飛び散る。


「ヒッ!」


死が間近に迫った老人は麻袋の中身を、
少年の首と勘違いしているのだろう。


昨晩、少年にあの外国人を連れてきた理由を
問い詰めたが、仲介業者の老人が斡旋しただけで
その理由までは不明だとわかり、不問にした。


シメたニワトリを詰めた麻袋に
怯える老人に、込み上げる笑いをこらえた。


「俺の弟を、どこへ売った?」


この老人と出会ったのは、
弟の死がきっかけだ。


濃い霧の日に、
俺は寄りかかる綺麗な赤髪をした
弟の死体を売り渡し、それからこの仕事を得た。


「…覚えてない。」


しばらくの沈黙のあとで、
老人が小刻みに首を振る。


「顧客リストになければ、
 あんたが『使った』のか?」


この場合の『使う』とは、
符丁でもなければ隠語になっていない隠語だ。
子供への用途は限られる。


「違う! 俺もただの仲介業者(エージェント)だ。
 協会や成り上がり連中ならともかく、
 上流貴族と直接のツテなんて持ってねえ。」


「上流貴族か…。」


それを聞いて、俺は満足して
しばらく湧き上がる笑いを堪えた。


死から20年も経った弟だ。
いまさらそんなに執着はしていない。


死後は上流貴族の家で可愛がられたのなら、
飢えと肺を患って苦しんだときよりも、
さぞいい生活だったのだと信じたかった。