「3つ質問がある。
 1つめはただの答え合わせだ。
 あんたがその名前を出すだけで俺はうなずく。」


黙る老人を見下ろして、
水瓶の中の水を少し落とす。


「あんたをこのままにしておけば、
 そこらの野犬が生きたまま
 あんたの顔を食ってくれる。
 そのままでも低体温で正気を失う。
 墓に入るのとどっちがいいか――、
 なんて賢いあんたならわかるだろう。」


「待ってくれ! ()けてくれ。」


「墓から死体をなくすのも増やすのも、
 俺とあんたの仕事だったじゃないか。
 昨日もひとり死んだぜ。」


「葬儀屋()! すでに協会と手を組んでる。
 俺はよりリスクの少ない方を選んだ()け。」


「だろうな。」


葬儀屋は商売敵だが、
死体の入手は墓を掘るよりリスクは少なく、
無名の死体は楽に手に入る。


ダミーの棺を用意する必要がないし、
この老人が鞍替えするなら当然の相手だ。


「商品の死体を石に変えた棺で、
 過失をでっち上げようとしたのか。
 20年…あんたも老いたな。
 それで俺を墓穴に突き落とせるとでも思ったか。
 あんたの家も、通ってる酒場も、買ってる女も、
 あんたの家族も全部知ってるんだぞ!」


「早く、()してくれ。」


寒さで震えるこの老人は仕事に失敗した。
しかし罠にハメた相手に助命を懇願(こんがん)する。


失敗がどうなるのか、この老人には
充分理解させなければいけない。