墓地に背の曲がった見覚えのある老人が
ひとりたたずみ、集めた落ち葉の近くで
喫煙パイプを吹かしていた。


離れたところに、幾人かの参列者らがいる。


俺は喫煙している老人に、
いつもどおりに注意をした。


『そこでタバコを吸うと、火事になる。』


『そうか、お前も吸うか。』


老人もこれ見よがしにパイプを見せた。


『仕事か。』


そうたずねれば老人はうなずく。


不自然に一致しない会話が、
この仲介業者(エージェント)との符丁になる。


黒のスーツにトップハット、
青い目に厚い口ひげを蓄えている。


背の曲がったこの老人の男には、
英国紳士のマネごとは似合わない。


「で、なんのようだ?」


老人はいつもの様子でやってきたが、
今日は妙に違和感を覚え、俺はたずねた。
霧のせいだろうか。嫌な臭いが鼻にこびりつく。


「あの墓だ。」パイプで墓を指した。


「見ればわかる。ここは俺の庭だ。…名前は?」


「名前? そんなもん知ってどうする。」


「なに、文字を覚える勉強だ。退屈なもんでね。」


老人の煙に合わせて、俺は嘘を吐いた。


「んなもん、どうせ飽きるだろう。
 アレッサンドロだ。Aからはじまる。」


「ありがとよ。」


落ち葉をかき集める作業に戻ると、
口ひげの老人はよたよたと去っていく。


いつものように酒場に寄ってから、
家に帰るのだろう。


老人の依頼によって今夜、
アレッサンドロの墓を暴く。
それが俺の仕事になる。