濃い霧が、墓所へと流れ、
街のかすかな臭いを運ぶ。
ロンドン北西部の森林地帯を拓いて近年作られた、
ハイゲイト墓地に植えられた木々は朱に染まり、
墓石が落ち葉の血溜まりに埋まる。
俺は墓石を埋める落ち葉をかき集め、
今日も黙々と掃除に励む。
人間、仕事は選べない。
俺は墓守の手伝いをして、
かれこれ20年になる。
19世紀も半ばになると経済成長だかで、
景気はよくなり都市部に人が集まった。
人口が増えれば当然、死者も増える。
死者が増えると埋葬地が足りなくなる。
そんな理由でできたのがこの墓地だ。
ロンドンには仕事を求めて余所者が集まる。
俺も15歳のときに身寄りを失いここへ来たが、
年の近かった弟はすぐに死んでしまった。
こんな霧の深い日だった。
墓守の仕事は墓地の掃除だけではなく、
名前の通り、墓荒らしから墓を守ることだ。
ただ、墓守などという仕事は、
生産性がないので一生低賃金であり、
まして楽して金を稼ぐ仕事とはほど遠い。