ズキッと胸に痛みが走った。あまりの痛さにうずくまったら、動けなくなった。
「誰か、だれか、たすけて」
結局声が届かなかったのか、声が出ていなかったのか。意識が死の狭間に吸い込まれていく、そんな気がした。

『白』
その言葉が一番似合う部屋にいた。周りにはドラマで見たような医療機器が定期的に機械音を鳴らしながら並んでいる。でも人は見当たらない。すると、看護師が入ってきた。
「起きたんですね。先生を呼んできますね」
そう言ってその人はにっこりと笑って立ち去っていった。こんな隔離された部屋に入れられて、一体、どんな難病にかかってしまったのだろう。そんなことを考えていると先生がやって来た。そして看護師の人と何かの検査をしていく。
「自分が誰か分かるかい?」
何を言っているのだろうか。分からないはずがない。
「はい、分かりますけど」
「何歳か分かるかい?」
「今日はいつですか?」
「そうか、ごめんね。今日は四月十一日だよ」
気を失ったのが確か三月の二十五日だから二週間と少し寝ていたらしい。中学を卒業して、この春から高校生のはずだ
「じゃあ、十五歳ですけど」
年齢なんて親に聞けば分かるだろとか思いながら答える。
「鏡を」
先生がそう言うと手鏡が渡された。いつものように見ようとすると何か顔の位置が違う。元々、身長がそんなに高い方ではないが、こんな小学生みたいな身長ではないはずであった。
「え?」
すると先生が話しかけてくる。
「君が病院に来たら急に身長が縮んで顔つきも変わってしまったんだ」
いやいや、そんなことあるわけない。
「先生、これって病気ですよね、治りますよね」
今までとは違う姿で生きていくことなんて考えられない。
「恐らく、自然に元に戻ることはない。骨格の成長が止まっている。だから、身長ももう伸びないだろう」
「治療の方法はありますよね」
恐ろしさが増して声を荒げて聞いてしまったため、先生は少し驚きながら答えた。
「正確に言うと君は病気ではないんだよ。体から妙なウイルスの類いは見つからないし、生命活動に異常があるところもない」
「じゃあ、何でこんな部屋に?」
身体の機能に悪いところがないならこんなとこを用意する理由がないはずだ。
「心配させてしまったかな。今の君はどう見ても子供だが、中身は高校生だ。それでは小児科にも一般病棟にもいられないだろうという考えからだ」
確かにその通りである。小児科に入れられたらもっとパニックになっていただろう。
「というか、運ばれてきていないはずの人なのにこの病院に居たらいろいろ問題があるだろ」
その通りであるとしか言えない。
「そして、君には病気がない、目も覚めてしまった。だから、もうこの病院にはいられないだろう。恐らく明日にでも退院だ」
「そしたら私は、」
声が届いていないのか、声が出ていないのか先生は話を続ける。
「そして退院した君が元のような人生を歩むことは難しいだろう」
自分が声に出す前に言われてしまった。決定的な事実を。今までと異なった人生を生きていかなければならないという事実を。そして次の日に私は退院となった。先生にこれほど喜ばしくない退院は初めてだと言われた。先生は冗談のつもりかもしれないけど、全く笑えなかった。