プロローグ
男はがんを患った。
大腸癌だった。
幸いにも手術で完治できるはずだった。
そう、はずだったのだが、手術でガンは完治しなかった。すでに肺に転移していてだがこれも手術で治るはずだった。
不幸中の幸いに次ぐ不幸中の幸い
男は手術中に目を覚ました。正確に言えば意識だけが体から飛び出して手術室の中で立っていた。
立ち尽くしている横で手術は進んでいるのだがどうも様子がおかしい
しばらく見つめていると手術室にアラームが鳴り始めた。執刀している男の顔が曇った。
そしてまさにその時目の前から色が失われた。まるでモノクロの映画でもみているように灰色だ。
すると隣から不意に話しかけられた。
「あなたはここで死んでしまうのですよ」
今こんな状況を目の当たりにしたからだろうか、その言葉にも隣に人がいたことにも不思議と心は揺らがなかった。
その人の方へ振り返ると礼服を纏った男とも女とも言い難い人が立っていた。
「初めまして日室大介様」
と『その人』はこちらに丁寧にお辞儀をする。
「あなたはもうすぐに死んでしまいます。ですが勘違いしないで欲しいのは決してこの手術が原因というわけでというわけではありません。あなたの人生、あなたの寿命は初めからここまでだったとただそういう話なのです。」
とても飛躍した話についていけていないことなど明白だった。
そんな顔を見てか『その人』は何かを思い出したかのように頷いてまた話を続ける。
「すいません申し遅れました。私は死神でございます。あなたの死を見届るものでございます。普通なら私のことは見えないはずなのですけど、どうしてかこう死線を一度跨いでしまった人には見えてしまうらしくて…。こうしてあなたの前にいるというわけでございます。」
「はあ。」
と少し今の状況を理解する。
もう死んでしまうから死神がこうして目の前に現れたとそういう話なのか。
「しかしまだ悲観するには早いですよ?」
とこちらの考えを見透かしたように『死神』は微笑む。
「私たちは本来知られてはならないのです。しかしあなたに見られてしまった。死んでしまえば忘れてしまうかもしれませんが…、それでもやはり強い死の幻想に包まれるわけですから魂にはなんらかの影響が出てしまうことが多くて…。それで私たち死神はこうやって見える人と契約することを決めたのです。死神は死者の願いを一つだけ聞いてそれを叶える。そしてその代償として死神と出会ったことを忘れるとそういう簡単な話なんですが…。」
と流暢に話し続けていたのを急にやめてまるで嬲るかのような目でこちらを見てくる。
「あなたのお願いはなんですかね?」
しかしそんなことを急に言われてもふと思いつくものではない。本当に最後のお願いになってしまうのだろうから。
しばらく黙っているのを見かねたのか
「ささ、なんでもいいんですよ。なんでも叶えられますから。」
と催促してくる。
『なんでも…。』
そう心の中で呟くと脳裏に思い残していたことが走馬灯のように駆け巡る。
そして望んでいることがつまり何を指すのか、理解してしまった。
『生きたい。』
そう一度思ったら思ってしまったらそれ以外の考えが薄れていってそれだけを明確に感がてしまう。
すると死神は微笑んで囁いてくる。
「どうやらお願いは決まったようですね。」
「ああ、私は生きたい。」
そう聞くと死神は高らかに笑い声を上げた。
「そうですか…。生きたい…。」
そう言いながらまた大きく笑い声を上げる。
「死神にそんなことを願うとは…、全く人間は面白いですね。死を司る神に生を願うとはお門違いという言葉をご存知ないのですか?」
と散々なことをいってのける。
「しかしまぁ、約束は約束ですよ。その願いを叶えてあげましょう。ですがそんな願いをタダで叶えることはできないわけでして…。」
そしてまた不敵な笑みを浮かべる。
「死神のアルバイト、やりませんか?」
男はがんを患った。
大腸癌だった。
幸いにも手術で完治できるはずだった。
そう、はずだったのだが、手術でガンは完治しなかった。すでに肺に転移していてだがこれも手術で治るはずだった。
不幸中の幸いに次ぐ不幸中の幸い
男は手術中に目を覚ました。正確に言えば意識だけが体から飛び出して手術室の中で立っていた。
立ち尽くしている横で手術は進んでいるのだがどうも様子がおかしい
しばらく見つめていると手術室にアラームが鳴り始めた。執刀している男の顔が曇った。
そしてまさにその時目の前から色が失われた。まるでモノクロの映画でもみているように灰色だ。
すると隣から不意に話しかけられた。
「あなたはここで死んでしまうのですよ」
今こんな状況を目の当たりにしたからだろうか、その言葉にも隣に人がいたことにも不思議と心は揺らがなかった。
その人の方へ振り返ると礼服を纏った男とも女とも言い難い人が立っていた。
「初めまして日室大介様」
と『その人』はこちらに丁寧にお辞儀をする。
「あなたはもうすぐに死んでしまいます。ですが勘違いしないで欲しいのは決してこの手術が原因というわけでというわけではありません。あなたの人生、あなたの寿命は初めからここまでだったとただそういう話なのです。」
とても飛躍した話についていけていないことなど明白だった。
そんな顔を見てか『その人』は何かを思い出したかのように頷いてまた話を続ける。
「すいません申し遅れました。私は死神でございます。あなたの死を見届るものでございます。普通なら私のことは見えないはずなのですけど、どうしてかこう死線を一度跨いでしまった人には見えてしまうらしくて…。こうしてあなたの前にいるというわけでございます。」
「はあ。」
と少し今の状況を理解する。
もう死んでしまうから死神がこうして目の前に現れたとそういう話なのか。
「しかしまだ悲観するには早いですよ?」
とこちらの考えを見透かしたように『死神』は微笑む。
「私たちは本来知られてはならないのです。しかしあなたに見られてしまった。死んでしまえば忘れてしまうかもしれませんが…、それでもやはり強い死の幻想に包まれるわけですから魂にはなんらかの影響が出てしまうことが多くて…。それで私たち死神はこうやって見える人と契約することを決めたのです。死神は死者の願いを一つだけ聞いてそれを叶える。そしてその代償として死神と出会ったことを忘れるとそういう簡単な話なんですが…。」
と流暢に話し続けていたのを急にやめてまるで嬲るかのような目でこちらを見てくる。
「あなたのお願いはなんですかね?」
しかしそんなことを急に言われてもふと思いつくものではない。本当に最後のお願いになってしまうのだろうから。
しばらく黙っているのを見かねたのか
「ささ、なんでもいいんですよ。なんでも叶えられますから。」
と催促してくる。
『なんでも…。』
そう心の中で呟くと脳裏に思い残していたことが走馬灯のように駆け巡る。
そして望んでいることがつまり何を指すのか、理解してしまった。
『生きたい。』
そう一度思ったら思ってしまったらそれ以外の考えが薄れていってそれだけを明確に感がてしまう。
すると死神は微笑んで囁いてくる。
「どうやらお願いは決まったようですね。」
「ああ、私は生きたい。」
そう聞くと死神は高らかに笑い声を上げた。
「そうですか…。生きたい…。」
そう言いながらまた大きく笑い声を上げる。
「死神にそんなことを願うとは…、全く人間は面白いですね。死を司る神に生を願うとはお門違いという言葉をご存知ないのですか?」
と散々なことをいってのける。
「しかしまぁ、約束は約束ですよ。その願いを叶えてあげましょう。ですがそんな願いをタダで叶えることはできないわけでして…。」
そしてまた不敵な笑みを浮かべる。
「死神のアルバイト、やりませんか?」