「ねぇ。せっかく家出るならさ、同じ地域に住まない?」
 昼休みが残り十五分となった時刻。私たちはもはや習慣的に4階の階段で雑談していた。

「高宮さんも卒業したら家出るんだ。それなら同じ地域のほうが安心だね。……そうだ、今からどこに住むか決めようよ!」

 私がおそるおそる提案すると、皆崎さんはウキウキして応えてくれた。住みたい街ランキング上位の名前を挙げる彼女に、私は言う。

「美玖がいてくれたら、私はどこでも。……だけど、近いところは嫌かな。関西とかがいい」

 さらに、言葉を重ねる。『皆崎さん』から『美玖』へ。自分だけの美しさを発揮する彼女に、これ以上の呼び名はないと思えた。

「関西、いいね。わたしだって藍がいてくれたらどこでもいいよ。わたしたちはどこにでも行けるから、ゆっくり決めていこう」

 私の勇気を、ふわりと笑って美玖は受け止めてくれる。
 ──そうだ、私たちはどこへでも行けるんだ。

 思うように食べられなくても。
 理不尽な環境でも。
 劣等感に苛まれても。

 私たちはどこへでも、羽ばたくことができる。

「ありがとう」

 どれだけ辛くとも、生きている限り。
 心からの言葉を聞いた美玖が、私の手にそっと自分の手を重ねる。夏の温度が、私たちを包み込んだ。